2006 Fiscal Year Annual Research Report
福祉国家と教育機会-教育政策における市場原理の導入に関する理論・実証研究-
Project/Area Number |
05J10429
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
卯月 由佳 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 教育機関 / 社会移動 / 不平等 / 貧困 / パネル調査 / イギリス |
Research Abstract |
本研究の目的は、貧困世帯に育つ子どもが将来貧困に陥るリスクを軽減するために、教育投資の拡大が有効かどうか、それとも他に優先すべき政策があるかどうか、イギリスを事例に検討することである。今年度は昨年度よりも広範な先行研究レビューと、データと方法の吟味を進めたため、分析は途中である。 1.貧困(世帯の相対的低所得)の動態的アプローチによれば、貧困は、労働収入の他に世帯構成の変化によっても出入りの見られる現象である。本人の状況に変化がなくても、同じ世帯のメンバーの労働収入または社会全体の平均世帯所得が変化した場合にも出入りが生じうる。個人、世帯、社会の変動を同時にモデル化することは難しいので、教育の効果を検討する際には、個人の選択によって決まる変数だけに着目するほうがよい。 2.貧困の世代間継承を説明するモデルには、(1)the economic model、(2)the socio-demographic model、(3)the welfare-dependency model、(4)the structural modelがある。(3)は実証研究によって支持されない。さらなる教育投資が最優先であることを示すには、(2)と(4)よりも(1)の説明力が強いことを実証する必要がある。(1)は他のモデルと異なり労働収入の側面のみを見るため、労働収入と世帯形成を両方考慮に入れた上で(1)が重要であるという結論を導くには工夫がいる。 3.以上に留意し、本人の労働収入の変動にする教育の効果を検討することに課題を絞った。この教育の効果が、貧困リスクの高い世帯形成をする場合、若年期のインセンティブが低い場合には小さくなることが予想される。賃金に反映される教育の収益率の他に、非就業となる確率と非就業状態から就業に至る確率に対する教育の効果を分析している。マクロ社会経済との関連を考察するため、異なるコーホートを対象とする3つのパネルデータを用いている。
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