2005 Fiscal Year Annual Research Report
福祉国家と教育機会-教育政策における市場原理の導入に関する理論・実証研究-
Project/Area Number |
05J10429
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
卯月 由佳 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 教育機会 / 社会移動 / 社会政策 / 貧困 / パネル調査 / イギリス |
Research Abstract |
本研究の目的は、世帯の貧困が個人の教育達成とその後のライフチャンスに与える影響について、イギリスを事例として実証的に明らかにし、機会の平等化を促進するための社会政策の方向性について検討することである。本年度の成果は、先行研究レビューと実証分析における次の3点にある。 1.社会の不平等に関する議論では、不平等の拡大が世代間移動の低下(機会の不平等の拡大)につながることが前提とされることが多いが、この前提をサポートする証拠はほとんど提示されていない。最近の先行研究では、アメリカとイギリスの両方で不平等の拡大が見られるのに対し、流動性の低下はイギリスだけに見られることから、イギリスにおける子どもの貧困の増加が流動性の低下に関連しているのではないかという仮説が導かれる。本研究はこの仮説に対して、マクロレベルの分析(ある時点の社会を1ケースとして、流動性と貧困の程度の関連を見る)ではなく、ミクロレベルの分析(個人を1ケースとして、貧困が社会移動に与える影響を見る)によってアプローチすることにし、世帯パネル調査(BHPS)を用いた分析に着手した。 2.高度な産業社会では、十分な教育訓練を受けることが社会移動において重要となる。16歳時の世帯所得は若者の18歳時の教育と職業への非参加に対して有意な効果をもつが、詳細に検討すると、若者本人が16歳時にフルタイム就学したかどうかが重要な効果をもつことが明らかとなる。現在のイギリスの社会政策では社会保障よりも教育訓練への投資が優先されていることの妥当性が認められる(『海外社会保障研究』に発表)。 3.世帯所得という連続変数ではなく、貧困というカテゴリカルな変数を用いて同様の分析を行った。16歳時の貧困は若者の非参加に対して効果をもつが、教育達成(取得学歴)に対しては、16歳時の貧困よりも恒常的貧困のほうが重要な効果をもつ。さらなる検討が必要である。
|
Research Products
(1 results)