2005 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における抵抗の契機としての国学の展開--折口信夫と柳田國男を中心に--
Project/Area Number |
05J10833
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石川 公彌子 東京大学, 大学院・法学政治学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 折口信夫 / 土田杏村 / 武者小路実篤 / 保田與重郎 |
Research Abstract |
まず、折口信夫の共同体論と、土田杏村と武者小路実篤各々の共同体論を比較した。杏村は絶対者としての神の存在を前提とし、人間は神の意志と適合的であるとした。杏村の社会観・世界観は予定調和的なものであり、自己と他者、神、共同体、国家の対立は存在しない。この点において、個人と国家、あるいは神と国家の対立を記し、親密圏を国家から独立した存在とする折口の論とは決定的に異なっている。他方、実篤もまた個人と国家との対立を想定しておらず、しかも自己の本能を神の意志と同様の位置に置き、自己の欲望が他者に優越するとしている。実篤の共同体論もまた、折口の共同体論とは対照的である。これにより、国家と峻別し、他者の尊重を唱えた折口の共同体論の独自性が示された。 つぎに行ったのが、折口と折口から多大な影響を受けた保田與重郎との比較研究である。保田もまた、「世界精神」「浪漫精神」などと「神」を同一視し、神の問題あるいは神の不在の問題を思索していた。だが、保田の場合は折口とは異なり、神は国家や社会に対する批判精神を涵養する存在ではなく、感情や情熱をかき立てる存在であった。つまり保田は、国家や総力戦を肯定するために神の存在を必要としていたのである。この保田の思想は、折口の思想の対極に位置している。また保田は折口とは異なり、古代を再興したという理由から明治天皇以降の近代日本を積極的に評価し、天皇と神を同一視し、天皇と民衆心理の一体化を説いた。この点で保田は、天皇制批判を展開した折口とは決定的に異なっていたといえる。これにより、折口の神概念や天皇観の独自性があきらかになった。 以上により、国学の再興を唱えた折口信夫の思想の特徴が明確なものとなった。 なお、本研究を元に、2005年5月、政治思想学会第12回研究会自由論題報告において、「<道念>の政治思想-折口信夫における<批判>の方法」と題する報告を行った。
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