2006 Fiscal Year Annual Research Report
市民による公共的意思形成・意思決定手法の類型化にもとづく規範的研究
Project/Area Number |
05J10872
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
齊藤 康則 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 地方鉄道存廃問題 / 社会的共同消費手段 / サービス領域の「すき間」 / 生活防衛・生活保守 / 臨界点における公共性 |
Research Abstract |
転換期以降のケインズ主義的福祉国家の財政危機(危機管理そのものの危機)と、新自由主義的なその再編(「小さな政府」を目指した地方分権改革)は、自治体行政を主体とする公的サービス領域を縮小させ、地方都市では公共輸送機関・医療施設・社会福祉施設など「社会的共同消費手段」(宮本憲一)の縮減を必然化している。このような「社会的共同消費手段」の縮減が問題となるのは、階層・階級上の地位によって生活欲求の実現可能性に差異が生じ、とりわけ中小企業労働者・家族従業者の間で生活欲求の低位・低減化を招かざるをえない点にある。 この意味で、企業城下町・日立における日立電鉄線存廃問題は、現段階における格差問題を先鋭的に問うていたと言える。存続運動が問題提起していたのは、電鉄線廃線にとどまることなく、「次はバス、次はたぶん病院ですよ」と表現される「社会的共同消費手段」の全般的・総体的な縮減であり、それによって階層・階級間で差異化される生活実現の可能性であった。部課長・現場職工クラス間の家計水準の違いにより、退職後の彼らの生活の質が量的・質的に左右される-そして「社会的共同消費手段」の縮減によって、中小企業労働者・家族従業者の生活欲求はいっそう充足不可能とならざるをえない-点に、運動者は現代的貧困の一端を見出したのである。 日立地域にとって、電鉄線存廃問題は地方鉄道の存廃問題に止まるものではない。それは「次はバス、次はたぶん病院ですよ」と言われるように、斜陽にある企業城下町において(長期的スパンで)予期される「社会的共同消費手段」の縮減の、"最初の問題"として捉えられている。それでは、以上のような問題群に対して、地域住民はどのように主体的に切り返していくのであろうか。そうした問題解決の一端を、公共交通不便地域(時間的空白)における乗合タクシー事業という、コミュニティ組織の下からの実践に見出すことができるだろう。 以上のような住民実践を、一括して「新しい公共性」というテーマの下で論じるには無理があるように思う。市場の撤退・行政の縮小にともなうサービス領域の「すき間」を埋める新たな主体(ボランティア・NPOなど)が登場したという事実に対して、ただただ「新しさ」を同定するだけでは、容易に「ボランティアの下請け」との批判に晒されることになる。地方都市における今日的な地域課題である「社会的共同消費手段」の縮減と、それに対する生活防衛・生活保守的な住民実践は、「新しい公共性」論ではなく、補完論-支援論的な理解・把握を要請しているのである(「縮減局面でのミニマムな公共性」「臨界点における公共性」。この点で、1970年代のシビル・ミニマム論の今日的展開=刷新が求められよう)。
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Research Products
(2 results)