2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J10877
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鈴木 隆美 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 文学研究 / プルースト / 建築 / 音楽 / フランス / 信念 |
Research Abstract |
今年度は主にプルーストにおける音楽の研究を行った。特にワグナーや象徴主義の流れを組む形で、プルーストが音楽という要素を作品の中に取り込む過程に焦点を当てた。その成果の一部として、論文1において、作品内に表れる鐘の音というイメージに注目し、分析を行った。『失われた時を求めて』で、プルーストはロマン主義の影響を受けつつ鐘の音というイメージに音楽性を見て、さらにその鐘の音を様々なものの象徴として機能させ、かつプルーストの作品の構造化に大きく役立てていることを示した。欧米圏の文学作品の中で、鐘の音は日々の生活と宗教的信仰の結びつきの象徴としてしばしば描かれてきたものだが、プルーストはそのイメージを読書という行為と結びつけ、独自の形で主人公の文学習得の一段階に組み込み、さらには宗教的信仰ではなく、文学に対する信仰の象徴として鐘の音を用いていることを示した。 プルーストにおける建築と音楽のテーマを追っていくと、そこには「偶像崇拝」というテーマと「信じること」というテーマが合い重なり合っていることが見えてきた。そこでこれら2つの概念の関係が『失われた時を求めて』以前のテクストから『失われた時を求めて』にいたるまでの過程でどのように変遷していったかということを調べていった。主に偶像崇拝とはプルーストにあって物質主義的傾向を指し、これらは徹底的な批判の対象であるのに対し、「信じること」とはそれと対極をなす精神の世界を指し、これは芸術創造のまさに素材となるものである。そこでこれら2つの概念の対立と相克がいかに音楽と建築のイメージによって表象されていくのかという点についての研究を行った。以上の点をとりまとめ、学会における口頭発表においてその成果を提出した。
|
Research Products
(1 results)