2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J10880
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
玉村 恭 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 能 / 能楽論 / 日本思想史 / 音曲 / 世阿弥 / 金春禅竹 |
Research Abstract |
本研究は、能における「音楽」の役割・位置づけを、能楽論を思想史的に検討することによって解明しようとするものである。本年度は計画通り、能を思想的に語ったテクストとして最も重要な世阿弥および金春禅竹の能楽論を中心にして検討を進めた。まず世阿弥であるが、従来、稽古論や身体論といった領域に比べると注目されることが少なくまた価値的にも重要度がやや劣るものと見なされがちであった世阿弥の音曲論が、実は彼の思想形成のプロセスにおいて(特に、彼の思想の極点である「無」や「妙」との関わりにおいて)見逃すことのできない重要性を担っていたことが明らかになった(雑誌『美学』掲載論文)。次に禅竹であるが、禅竹の能楽論は時期的にも環境的にも世阿弥とごく近いところで生産されながらも、世阿弥とはかなり異なった精神史的背景をバックボーンにして成り立っている部分が大きいため、彼の音曲思想を読み取ることにも困難が存したが、「翁」なる宗教的一者をすべての上に置き猿楽者の生業・営為をそれとの関わりの内に捉えようとする禅竹の独特な能楽観を考慮に入れることにより、彼の中での音曲の重要性がいかなる意味を持っているのか、一応の見取り図を描くことができた。禅竹にとって音曲は、猿楽者が翁との合一を目指すという使命を果たすための欠かせない媒介であった。この点についての成果が現在成稿しつつある段階である。さらに、能楽論以外の文化的コンテクストをも視野に入れることも重要であるが、眼を向けるジャンルの選択が難しく、この方面についてはいまだ模索の段階にあると言わざるを得ない。歌論や楽書などのいわゆる芸術論テクストだけでなく、物語や説話・随想にも焦点を当てて、芸術論的言説の掘り起こし作業を行っている。
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Research Products
(1 results)