2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J10880
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
玉村 恭 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 能 / 能楽論 / 日本思想史 / 音曲 / 世阿弥 / 金春禅竹 |
Research Abstract |
本年度は、昨年度に引き続き世阿弥および禅竹の能楽論を中心とする研究を進めつつ、背景の部分にまで踏み込んだテクストの検討に着手した。まず世阿弥であるが、思想形成のプロセスを扱った昨年度の成果を踏まえ、今年度は彼の音曲論に対するより個別的・各論的検討を行った。その結果、彼の考える能という営み全体を根底から支える働きを音曲が担わされていたこと、そのことが彼の思考の随所に独特な形で現れていること、そしてそれが彼の能楽観・世界観の独自性を形成していることが、明らかとなった。こうした考え方は、彼の後継者である禅竹と共通する志向性を持ちつつ、能という営みをどこに収斂させるかという点について、深い部分で二人が見逃せない相違を持っていたことを示すものである。二人の能楽観は音曲をめぐって大きく近接し、またその近接ゆえに結果として鋭い対比を持つに至った(以上、『美学芸術学研究』24号・25号掲載論文)。また今年度は、世阿弥の能楽観の背景を探る試みとして、彼の創作した実作品の検討も行った。現行曲の多くが世阿弥の手になるものであるが、その思想史的な深みについてはまだ多くの検討の余地を残している。とりわけここでは、芸術的営みが主人公の生き様と密接な結びつきを持つもの(具体的には修羅能)を選び、そこに潜む芸術観・音楽観を掘り起こす作業を行った(『死生学研究』掲載論文)。さらに、より広く日本思想史一般の問題として本研究を位置づけるため、視野を広げて歌論の領域にも検討の手を伸ばした。取り上げるべき論題・論者は数多いが、試みの一つとして鴨長明について論じ、中世日本において芸術的営為が現在とは違う形で人間の生と切り離せない重要性を担っていた可能性を提示した。
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Research Products
(4 results)