2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J10936
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川嶋 章平 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | 生存権 / 社会 / 福田徳三 / 社会的なもの |
Research Abstract |
1.西欧における新自由主義の展開を念頭に置きつつ、具体的には日本の思想家を対象とし、申請時に一度検討していた福田徳三の思想を、その生存権と自由主義の主張を繋ぐ「社会」という観点から、再度検討した。福田の相互扶助を基調とする社会観と闘争を基調とする社会観が、彼の「社会」の特殊な定義-「社会的なもの」及び「国家」という二側面から定義-に由来することを明らかにした。その上で、彼がどちらの側面を重視するかで個人の生存保障に対する態度も変化することを論じつつ、時間という概念がそれら2つの定義を両立させたことを明らかにした(社会政策学会第110回自由論代報告)。さらに論文「福田徳三における「社会の発見」と個人の生」(『相関社会科学』第15号)では、福田と同時代の論者、特に自由主義論者の永井亨との比較を、「社会」概念を軸として行った。申請時には、福田以外の論者の社会観が、相互扶助に基づくものだと考えたが、実際のところ永井を含む諸論者の多くは、相互扶助・闘争の両側面を重視していることが判明した。但し、永井による福田批判などから、福田が闘争を重視する側面が、相対的には強いことが結論づけられた。 2.また前記の福田徳三と法学者の牧野英一の生存権思想を対象として、なぜそれらの思想が生存保障を権利として標榜する必要があったのかを検討し、現在、論文投稿を計画している。彼らの生存権論は個人の請求権的権利などの特徴を備えておらず、その点では権利と呼ぶ必要性はないと言える。しかし、生存権論は所有権を代表とする権利概念一般を批判・刷新する試みであり、その意味で権利標榜の必要があったと考えられる。生存権論は、権利概念の使用を、人間の潜在力がよき社会秩序に整形される場合に限定しようとした。別の言い方をすれば、生存を権利とみなすことも、そうした権利概念の改変によって初めて成立したといえる。
|
Research Products
(1 results)