2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J10943
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂本 さやか 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | ミシュレ / 歴史 / 視覚 / フランス |
Research Abstract |
本研究は、フランスの歴史家ジュール・ミシュレ(1798-1874年)における視覚文化・視覚表象の問題を以下の観点から検討することを目的とする。すなわち(1)19世紀の視覚文化(パノラマ、ディオラマ、写真)の文脈の中にミシュレの視覚経験・視覚観を位置づける。(2)同時代の自然科学・医学の分野における対象への視覚的アプローチの方法が、ミシュレの歴史学についての方法論的考察および歴史記述に与えた影響を証明する。(3)ミシュレの歴史記述の視覚的特徴を、作品に登場する視覚装置の隠喩との関連に着目しつつ明確にする。平成18年度は、これらの観点のうちの(3)を中心に扱った。『中世史』(1833-1844年)に登場する宗教的・政治的儀式や演劇といったスペクタクルに関わる記述を、当時の文化史・演劇史を参照しつつ分析した。まず、13世紀の典礼劇・宗教祭典の描写に注目し、これらの一連の儀式が、キリスト教救済史の順序にしたがって体系的に配列され、さらに、14世紀以降に登場する聖史劇という演劇ジャンルと比較されていることを明らかにした。次いで、入市式・聖史劇といったスペクタクルが数多く登場するシャルル6世の治世の記述を、エルンスト・H・カントローヴィチが論じた『王の二つの身体』の理論をもとに読解した。そしてこれらの演劇的場面を通じてミシュレが構築する「王権の受難」のスペクタクルを、シェイクスピア演劇『リチャード2世』と比較した。『ルネサンス・宗教改革』(1855年)については、フォンテーヌブローの森や城の描写において、視覚効果を多用する「妖精劇(フェエリー)」のイメージが果たしている役割を検討した。その結果、ミシュレが、妖精劇を隠喩として喚起するだけでなく、さらに、この演劇ジャンルの演出上の特徴である場面転換の多用という手段を自らの視覚的描写の中で用いていることが明確になった。
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Research Products
(2 results)