2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J11071
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
賀川 史敬 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | モット転移 / 臨界現象 / 強相関 / 有機導体 / 輸送特性 / NMR |
Research Abstract |
ヘリウムガス圧下でNMR測定を立ち上げに着手し、測定可能な状態まで調整した。その後実際にこのシステムを用いて、目的であった擬2次元有機導体κ-(ET)_2Cu[N(CN)_2]Cl(以下κ-Cl)の^<13>C-NMR測定を行なった。磁場はmagic angleに平行に印加したので、共鳴スペクトルが2本しか現れない単純なものにすることができた。測定はモット臨界点近傍の物性に焦点を絞って行なった。モット転移をNMRで調べた例はこれまで数多く報告されているが、モット臨界性を系統的にNMRで調べた例は、物質を問わず今までに報告されていない。従って、今回の実験が初めてのモット臨界性のNMR研究となる。 実験からNMRスペクトルからはモット転移近傍で金属と絶縁体が相分離していることが明瞭に確認され、モット転移が1次転移であることが支持された。金属相と絶縁相のナイトシフト、及びスピン-格子緩和率1/T_1の違いは臨界点に近づくにつれて消失するという臨界性が発見された。これは伝導度の跳びが臨界点に向けて消失していく臨界性と定性的に対応している。また臨界点ではダブロン密度の揺らぎが臨界遅延を起こしていることが予想されるが、少なくとも1/T_1で見る限り、電荷の遅い揺らぎは観測にかからないことも明らかとなった。これは有限温度におけるモット臨界性は、電子の有効質量や状態密度が発散するという単純な描像では理解できないことを示している。 またかねてからの懸念であった、κ-Clにおける反強磁性温度近傍で観測されるナイトシフトの異常について、対称性の考察から明確に説明することに成功した。DM相互作用が働いているスピン系にさらに磁場を加えると、non-colinearな状態が全温度域で誘起されることが、対称性の考察より示せた。この考察は理論家の先生数名にチェックして頂き、正しいことも確認した。この考察をさらに確かなものにするために、高磁場下磁化測定が進行中である。
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