2006 Fiscal Year Annual Research Report
3世紀から4世紀初頭におけるローマ帝国統治構造の変容
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05J11652
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大清水 裕 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ローマ / ディオクレティアヌス / 都市 / 皇帝 / 総督 / イタリア |
Research Abstract |
今年度の研究はイタリア出土の碑文を中心に研究を進めた。 共和政期の同盟市戦争以来、イタリアの諸都市は様々な特権を有していた。その特権は3世紀には失われ、ディオクレティアヌス帝の治世には他の属州と同じ統治機構が導入された。その過程で、新たに導入された知事correctorは、都市に対してより緊密な支配を行なうようになった、と考えられてきた。しかし、都市に対する支配の強化を想定するだけの根拠は十分なものではない。 そもそも3世紀は文献史料に乏しく、碑文を中心に研究を進めることとなる。しかし、文献史料と碑文史料の問の齟齬、あるいは文献史料間、碑文史料間での齟齬など、様々要因が絡み合い、先行研究でも様々な解釈が示されてきた。 今年度の研究では先行研究の混乱を整理した上で、この問題に対する見解を示した。その際、特に重視したのは北イタリアのコモで発見された碑文である。そこに記されている皇帝の「命令」という文言ゆえ、従来は都市に対する管理強化を物語るものと考えられがちであった。今年度の研究では、この碑文の作成年代やそのコンテクストを考察し、都市側の要請に基づき皇帝が恩恵を与えたものとしてこの碑文を位置づけた。この時代の都市と帝国当局の関係は、単なる支配・被支配という関係では無く、情勢に応じ都市側も積極的に活動していたのである。論文として公けにしたコモの事例のほか、アクィレイアやオスティアなど他のイタリア都市についても研究を進めている。 この他、北アフリカやスペインの事例についても研究を進めている。来年度は現在のフランスやイギリスにあたる地域についても手を伸ばし、この時代の帝国統治構造の変容を多角的に考察していきたい。 また、碑文史料のより広い視野での理解のため、法文・文献史料の研究も並行して進めている。特に、テオドシウス法典の翻訳を進める研究会には引き続き参加し、研究を進めた。
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Research Products
(2 results)