2007 Fiscal Year Annual Research Report
十八世紀英国の哲学者ヒュームの宗教論研究を中心とした近現代の宗教哲学の研究
Project/Area Number |
05J11656
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 優子 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 宗教哲学 / キリスト教 / ヒューム / 寛容 / 多元主義 / 懐疑主義 / スコットランド / 近代思想 |
Research Abstract |
私は17年度よりヒューム宗教哲学の全貌を明らかにすべく研究を行った。はじめの2年間では、宗教論の全体の枠組みを再構成し、懐疑主義的議論と、人間本性から多様な宗教が生じうることを論じる多元主義的な議論の各論について詳細な検討を行った。最終年度である19年度は、なぜヒュームがこの二つのやり方で宗教を論じたかを解明することを目的とした。そのための方法として、宗教論以外のヒュームの文献、すなわち歴史や政治に関する諸論文を検討した。それらの中でヒュームは、哲学的に神の存在を正当化する議論が、他の宗教に対する強い不寛容の態度を生じさせるという分析を示す。つまり、キリスト教の神が存在することを真とする議論をたてることが、偽とされたその他の諸説に対する排除を生むというのである。彼は存在証明という議論の政治的意味を押さえていた。 前年度までの研究結果と合わせると、次のような結論が導かれる。ヒュームの宗教論は、当時、重大な政治的課題であった「寛容」に対する一つの画期的な主張をなしている。ヒュームは懐疑主義議論によって存在証明の不備を示し、知的な確信に基づくとされる不寛容の態度が、実は不合理なものであることを暴露する。彼の議論は、他者を否認したうえで許容しようとする「寛容」という議論の枠組みそのものに関し、疑問を呈す。むしろ、ヒュームは不寛容の原因となるものの無根拠さを明らかにすることによって、「寛容」の問題を解消したといえる。 本研究には二つの意義がある。まず、懐疑主義を中心としたヒューム宗教哲学の政治的意味を明らかにした点に第一の意義がある。 複数の宗教の平和的共存を目指すための議論として、現代でも寛容は重要なツールの一つと考えられ、研究が進められている。その「寛容」という概念に含まれる知的傲慢さを懐疑主義によって批判し、宗教対立の解消に関して異なる手法で取り組んだ議論が18世紀の段階ですでにあったことを示したことに、第二の意義がある。
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