Research Abstract |
妄想的観念とは,精神病理を持たない人にも広くみられる,妄想に類似した信念のことである.妄想的観念の発生には認知や推論のゆがみが関わっていると言われる. 妄想的観念は,複数の認知のゆがみの影響も受けている可能性がある.そこで,大学生115名を対象に,妄想的観念に関わる認知のゆがみを探索した.用いた質問紙は,妄想的観念尺度(PDI),抑うつ尺度(SDS),認知的完結欲求尺度,認知的熟慮性・衝動性尺度,心理的健康と関連する曖昧さ耐性尺度であった.その結果,先行研究同様,曖昧さ耐性が低いほど妄想的観念を多く体験していることが分かった.また,妄想的観念の苦痛度は,予期を好む傾向と白黒思考の傾向が高いほど強まった.妄想的観念の確信度は,秩序へのこだわりが強いほど高かった. 妄想的観念と推論のゆがみに関して,これまで行われてきた実験の多くは,感情の影響を伴わない中立的なものである.一方で,妄想的観念は対人関係に関する内容が多い.そこで,大学生34名を対象に対人場面を想定した確率判断実験を行い,推論のゆがみが見られるか検討した.刺激には人の顔写真を用いた.その結果,対人的要素を含む実験では,中立的な素材を用いた実験よりも,確率判断が慎重に行われることが分かった.また,妄想的観念得点高群は,妄想的観念得点低群より,自分の仮説に対する確信度を高く見積もっていた.この傾向は先行研究で指摘されている推論のゆがみと一致する.しかし,この傾向は情報収集が多く行われてから見られ,情報収集が少ない段階では見られなかった. 以上により,妄想的観念が病的な妄想へと発展することを予防するには,曖昧さ耐性や白黒試行,秩序へのこだわりに介入することが有効である可能性が示された.また,推論のゆがみは状況により表出パターンが異なる可能性が示唆された.状況に応じた認知行動療法の応用が,予防に有効であると考えられる.
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