2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J11677
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲村 一隆 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | アリストテレス / フロネーシス / 倫理学 / 行為 / 徳 / 政治的支配 / 政治的動物 / 政治学 |
Research Abstract |
本研究はアリストテレスのフロネーシスという知性がいったいどのようなものであるかを明らかにすることを目的とする。今年度はアリストテレスの『政治学』の主に第1巻と第3巻を取り上げ、アリストテレスにおいて「政治」がどのようなものとして捉えられているか、を研究してきた。というのもフロネーシスは政治家、立法家の知識とされており、フロネーシスは政治的な共同体、当時の都市国家の中で意味を持つと考えられているからである。 アリストテレスの「政治」の概念を捉えるのに最も重要な視点は、政治的な支配と主人的な支配の区別である。本研究がとりわけ重要視した区別は、政治的な支配は共通の利益を配慮するもの、主人的な支配は私的な利益を配慮するもの、という点である。これにより、フロネーシスとは個人的な利益(善)だけでなく市民に共通の利益(善)を配慮する知性であり、政治的な徳とは共通の利益を実現するための指導力であることが明らかにされた。そしてこのように他人の善や共同体全体を配慮することが当人にとっての徳の活動を意味することが無理なく理解された。アリストテレスの倫理学は、その聴講者が都市国家における市民として、政治と裁判に参加することが想定されている。彼の倫理学においては各人に徳を与えることが重要視されるが、その理由は支配者が徳を見につけなければ、共通の利益を配慮することはありえないという認識があったからである。 以上についてはすでに論文として書き上がってあり、2007年内にどこかの学術雑誌に投稿する予定である。最終年度に当たる今年は、分配の正義に関する問題を中心的に取り上げる予定である。というのも政治とは結局のところ財の分配であり、その分配の仕方を考えることがフロネーシスの活動であり、人間の幸福に寄与するからである。
|
Research Products
(1 results)