2006 Fiscal Year Annual Research Report
鉄触媒を用いた不活性結合切断を鍵とする新規炭素-炭素結合形成反応の開発
Project/Area Number |
05J11913
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 慎庫 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 鉄触媒 / クロスカップリング反応 / 不活性結合切断 / アルキルトシラート / 求核置換 / 不斉反応 / オキサビシクロアルケン / 不斉配位子 |
Research Abstract |
本研究は,安価で無毒な鉄触媒を用いた効率的かつ高選択的な新規炭素-炭素結合形成反応の開発を目指すものである.今年度は特に,炭素-酸素結合活性化に焦点を絞り,従来用いることが困難であった酸素脱離基を有する基質を用いた合成反応の開発を行った.また,鉄触媒の配位場の精密制御を目的に新規不斉反応の開発を行った. 私はこれまでにハロゲン化アルキルと有機金属試薬との鉄触媒クロスカップリング反応を開発している.しかし,求電子剤として用いられるのはハロゲン化アルキルに限られるという制約があった.工業的にはほとんどのハロゲン化アルキルが対応する脂肪族アルコールから調製されており,環境調和性の観点からは有毒なハロゲン化物を経由せずに,アルコールもしくはアルコールから簡便に誘導できる酸素脱離基を有する基質を用いるクロスカップリング反応が強く求められる.今回,種々の求電子剤を精査した結果,ヨウ化物イオン存在下でアルキルトシラートが有機亜鉛試薬と良好に反応し,対応するクロスカップリング生成物を高収率で与えることを見出した.この反応は,活性の高いヨウ化物イオンの求核置換反応による反応系中でのヨウ化アルキルの生成が鍵になっている.この成果はまだ学術論文には報告していないが,一部は日本化学会第87春季年会にて発表済みであり,現在学術雑誌への投稿原稿を準備中である. また,炭素-酸素切断を鍵とする新規不斉反応の探索を行う中で,鉄触媒によるオキサビシクロアルケン類の芳香族亜鉛試薬との開環付加反応がエナンチオ選択的に進行することを見出した.すなわち,触媒として塩化鉄,配位子としてCHRAPHOSを用いた場合に芳香環が縮環したオキサビシクロアルケンがジアリール亜鉛と良好に反応し,最高で67%eeの不斉収率で開環付加生成物を与えた.不斉収率向上の検討が必要であるために現時点で学術論文に報告はしてはいないが,還元状態の鉄触媒の配位環境を不斉配位子で制御した極めて数少ない例の一つである.
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