2005 Fiscal Year Annual Research Report
感情伝染の適応基盤を探る-進化心理学的アプローチ-
Project/Area Number |
05J50032
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田村 亮 北海道大学, 大学院・文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 進化心理学 / 行動生態学 / マイクロ=マクロ・ダイナミクス / 生理指標 |
Research Abstract |
本研究の目的は、感情の社会性、特に、人が他者の感情に伝染しやすい心理特性をもつことの機能を、適応論的な観点から検討することにある。適応論的観点とは、ある環境下で生き残りに有利となる形質は、身体的形質であれ、認知的・感情的形質であれ、母集団内において進化・定着するとみなす視座である。このような観点から、感情伝染という心理特性は、複数個人に関わる重要な適応問題に対し、集合的・社会的な解決をもたらすと考えられる。 本年度はまず、逸話的に論じられることが多かった感情伝染の存在を、認知心理学的な手法を用いて確定してきた。具体的には、表情刺激を知覚した後に実験参加者が示す、probe detection taskでの感情刺激に対する選択的注意配分を測定し、呈示された表情刺激に対応する同一の感情が、実際に参加者に生起したかを検討した。実験から、恐怖表情を知覚することで、さらに別の恐怖表情への選択的注意が向けられるという結果が得られ、恐怖感情が個人間で伝染する可能性が示唆された。この研究成果は、資料論文として「感情心理学研究」に投稿中である。 現在は、他者の表情を知覚した際の、表情筋電図(facial EMG)、皮膚コンダクタンス反応(SCR)、血液容積脈(BVP)といった生理反応の測定を行うことで、感情伝染の生理心理学的検討を行っている。刺激として用いた表情表出者と受け手側の実験参加者の生理反応が、時系列的に同じようなパターンを示すならば、感情が個人間で伝染することの有力な証拠となるだろう。今後はさらに、上記の経験的知見を踏まえた上で、各感情が伝染する(もしくはしない)生態学的な理由について、理論的な検討を進めていく予定である。
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