Research Abstract |
本研究では,脂質2分子膜や,脂質2分子膜からなる小胞体(リポソーム)に関する数値解析を行っている.これらは,生体膜の基本構造を形成しているため,生体膜輸送や赤血球の挙動等の解析に重要であるとともに,ドラッグデリバリーシステムなどの応用も期待されている.これらの系においては,ミクロな膜分子の構造やダイナミクスが,マクロな膜の変形挙動や膜輸送特性に大きく影響している.そのため,膜分子から赤血球,血管にいたる多重スケール現象に対して,統一的な手法による解析を目指している. 本年度は,まず,毛細血管などの微小循環系の末端で重要になってくる,脂質膜を介した分子輸送に関する解析を分子動力学(Molecular Dynamics, MD)法を用いて行った.脂質分子の構造が水や酸素などの輸送に与える影響を議論し,その研究成果はThe Journal of Chemical Physicsに掲載された. また,よりマクロなスケールへのアプローチとして,メゾスケールにおける解析手法の一つである散逸粒子動力学(Dissipative Particle Dynamics, DPD)法を用いた解析を行い,MD法との比較を行った.まず,MD法の結果を用いてDPD脂質モデルを提案した.また,拡散係数や粒子の数密度分布においてMDとDPDで良好な一致を得た.また,構築したDPD脂質膜において,新たな界面定義方法を導入し,熱揺らぎのスペクトル解析を行うことで膜の曲げ剛性係数を計算した.また,その値がMD法や実験から得られた値とよく一致することが示した.これらの結果は,国際学会や国内学会で発表を行った. さらに,粗視化分子動力学(Coarse-grained Molecular Dynamics)法を用いて,分子動力学と連続体計算をカップリングする手法を脂質2分子膜の系に適用した.本結果は国際学会で発表を行った.
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