2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
05J52322
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高川 晋一 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 絶滅危惧植物 / 個体群再生 / 土壌シードバンク / 近交弱勢 / 遺伝的ボトルネック / 異型花柱性 / 生物多様性 |
Research Abstract |
近年多くの植物種が絶滅の危機に瀕しており、その個体群再生が世界的な課題となっている。個体群の縮小に伴う遺伝的悪影響は個体群再生後も持続する可能性があるが、実際の野外個体群でのその重要性の検証例は未だ非常に少ない。著者は、茨城県霞ヶ浦で個体群の再生事業が実施されている絶滅危惧種アサザを材料として以下の研究をおこなった。 アサザの個体群再生には過去に生産され土壌中に残存している土壌シードバンクが用いられている。筆者は、近交弱勢が再生される個体群に及ぼす影響を明らかにする事を目的にした実験をおこなった。まずシードバンク由来の実生を湖岸から採取し、受粉実験由来の自殖・他殖子孫と比較することで、その適応度成分の相対的評価をおこなった。次に、遺伝マーカーを用いた解析をおこない、その親個体数や交配時の自殖・近親交配の程度を推定した。 その結果、シードバンクはわずか2から8個体の親に由来しており、しかも自殖由来の個体が優占的であることが判明した。そして、適応度成分は自殖子孫と同程度まで低下しており、強い近交弱勢の影響を受けていることが明らかとなった。以上のことから、過去の個体群縮小による近交弱勢の影響が、個体群の再生後に顕在化する可能性が示唆された。この成果は既にConservation Geneticsに公表済みである。 また筆者は、過去の個体群の縮小がアサザの異型花柱性という遺伝支配の繁殖システムに及ぼす影響を明らかにする事を目的とした実験も実施した。シードバンク由来の個体の開花実験を実施した結果、シードバンクには突然変異体である等花柱花型の個体が優占していた。このことは、正常な短-、長-花柱花型の個体が減少・消滅して異型花柱性という繁殖システムが崩壊する危険性を示唆している。以上の結果から、縮小した個体群を再生する際には、遺伝的要因を考慮することの重要性が検証された。
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Research Products
(1 results)