2006 Fiscal Year Annual Research Report
自己と他者を識別する脳内機構:事象関連電位法による社会神経科学的検討
Project/Area Number |
05J52332
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 宏器 東京大学, 大学院情報学環, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 認知神経科学 / 社会認知 / 共感性 / 個人差 / 前頭葉 / 事象関連電位 / 脳波 |
Research Abstract |
本研究の目的は、自己および他者に関わる神経表象の関係を、脳波上の事象関連電位計測によって検討し、人間の社会認知や共感的能力を支える脳神経メカニズムを探ることである。初年度には、自己および他者の神経表象の指標となる脳波パターン(Medial-Frontal Negativity ; MFNとよばれる事象関連電位)の確定を行った。これを受けて、二年目となる本年度では、MFN指標の生理学的な特性をさらに詳細に検討した。具体的には、「ギャンブル課題」と呼ばれる、金銭の損得を体験する課題を利用して、自己、および他者の金銭的損得を知覚した際のMFN電位の特性を調べ、以下のような知見を得た。 (1)対象に対する社会的・心理的帰属の反映:コンピュータプログラムの課題遂行にくらべ、人間、とくに親しい知人の課題遂行の結果を知覚した場合のMFN振幅のほうが大きく、その振幅は対象に対する意図や心的表象の帰属の強度に相関していることが示唆された。 (2)生理学的な機序の検討:MFNが生じる脳波セグメントを各周波数成分に分解し、シータ波およびガンマ波の相動的な発生と対応している知見を得た。このことは、MFNが前頭葉内側面と大脳辺縁系のネットワークの活動を反映しているとする仮説をサポートするものとなる。 (3)MFNの特性の一般性の検討:ギャンブル課題に加えて運動上のエラー誘発課題を用い、両課題に通じる個人差傾向を見出し、他者観測時のMFNが課題の特異性を超えた一般性を示唆した。 こうした知見から、MFNパターンを指標にして、前頭葉内側部の神経活動が社会的・情動的な影響を受けて外界の事象の価値判断を担っていることを示唆し、またこの神経活動を指標にして、自己と他者の社会的関係の認知を検討する手法的な素地を固めることとなった。これらの成果は2006年度の計三つの国内学会発表、および一つの国際雑誌論文として発表された。
|
Research Products
(1 results)