2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本の企業における従業員による企業統治の成立過程の研究 兼松史料をもとに
Project/Area Number |
05J52832
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
井上 真由美 神戸大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | コーポレート・ガバナンス / 従業員持株制度 / 商社 / 経営史 |
Research Abstract |
本研究の目的は、兼松株式会社を対象に、戦前のわが国における従業員持株制度の導入過程とその運用実体を評価することにある。今年度は制度の弛緩過程を調査する予定であったが、制度の確立期についてさらに調査を要すると判断したため、ややそれに重点を置き、次のような成果をあげた。 (ア)組織学会報告「従業員による企業統治形成過程の研究-戦前期の兼松における従業員持株制度の事例から-」(6月19日)、(イ)日本経済システム学会報告「戦前における「兼松」の従業員持株制度の機能について」(10月29日)、(ウ)神戸大学経済経営研究所主催兼松研究会報告「戦前期の兼松における従業員持株制度の特色とその原型」(12月2日)、(エ)「戦前における「兼松」の従業員持株制度-その能力主義的配分と経営参加のしくみ-」日本経営システム学会『日本経営システム学会誌』Vol.23,No.1(掲載予定)、(オ)「戦前期における生保業界の経営者と株主」神戸大学大学院経営研究会『六甲台論集-経営学編-』第52巻第4号、である。 (ア)から(エ)については、従業員持株制度が成立した当初の運用実態を調査した成果であり、a)店員株主への株式の配分は、当社独自の能力観にもとづいていたこと、b)株主総会は、店員株主の株主としての権利を認めるというよりは、むしろ彼らの経営参加者としての自覚を促す場であったことが示唆された。 (オ)は、株主主権の傾きが大きかったとされる戦前期において、経営者と株主の結合が短期利益志向から長期的利益志向に移行したことを明らかにした成果である。このような変化は、企業にとって外的な存在の株主が、企業内的な存在、あるいは経営に干渉しない存在に変化していったことを意味する。戦前に従業員株主制度が導入された企業が一定数存在したのは、このような関係性の変化という流れの中で捉えることも可能である。
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