1994 Fiscal Year Annual Research Report
「生きている化石」深海熱水フジツボの進化生物学的研究
Project/Area Number |
06404001
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Research Category |
Grant-in-Aid for General Scientific Research (A)
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山口 寿之 千葉大学, 理学部, 助教授 (10101106)
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Keywords | 深海熱水噴出孔 / 原始性 / DNA / 生きている化石 |
Research Abstract |
深海熱水噴出孔に生息するフジツボ類4亜目(エボシガイ、ブラキレパドモルファ、ハナカゴ、フジツボ亜目)の原始的な分類群の系統関係を、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の塩基配列から再構築するために、浅海に棲むクロフジツボ類のそれを調べる基礎的な研究を行った。 日本にはクロフジツボ類は、クロフジツボ(Tetraclita japonica)、タイワンクロフジツボ(T.formosana)、ミナミクロフジツボ(T.squamosa)の三種が知られる。Yamaguchi(1989)では三種の形態、地理的分布、生態、繁殖時期、イソ酵素の対立遺伝子頻度による系統関係が議論された。また化石記録はクロフジツボが中期中新世初頭から知られる。 和歌山県すさみ町で同所的に生息する現在の三種類の個体からmtDNAを抽出し、そのチトクロームCオキシダーゼサブユニットI(COI)遺伝子の塩基配列を比較した。その結果、クロフジツボとタイワンクロフジツボとの間で同一塩基対の割合が98.1%と非常に高く、ミナミクロフジツボとクロフジツボおよびタイワンクロフジツボとの間では、それぞれ82.4%、82.2%と低い。Kimura(1980)の2変数法で求めた遺伝距離は、クロフジツボとタイワンクロフジツボとの間が最も近く(0.0143)、近縁であることが明らかで、ミナミクロフジツボとクロフジツボおよびタイワンクロフジツボと野間はそれぞれ10倍以上遠く、0.2038および0.1927であった。つまりクロフジツボとタイワンクロフジツボとの種分化が地質時代のより最近に起こったことを示す。Knowlton et al.(1993)が求めたテッポウエビのmtDNAのCOI遺伝子進化速度を用いて、クロフジツボとタイワンクロフジツボの分岐年代を計算すると0.58Ma±0.23Maとなった。これらのことはYamaguchi(1989)の結果を支持するものである。この結果からフジツボ類の系統関係を引き出す遺伝子としてCOI遺伝子がかなり有望であることが明らかになった。
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