1996 Fiscal Year Annual Research Report
情動制御能力に及ぼす文化型の影響と母子相互作用:在日韓国人を対象として
Project/Area Number |
06451028
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Research Institution | OSAKA GAKUIN UNIVERSITY |
Principal Investigator |
荘厳 舜哉 大阪学院大学, 経済学部, 教授 (10121732)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀島 信也 日本社会事業大学, 社会福祉学部, 助教授 (90241108)
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Keywords | 感情意識構造 / 母子相互作用 / 在日韓国人 / 身体距離 / 回避(A)タイプ / 二律背反(C)タイプ / 「無常」観 / 「恨」の感情構造 |
Research Abstract |
感情意識構造は進化の過程で獲得してきた人類に共通の要素と,およそ1万年前に遡れる農耕の開始によって,世界各地に展開されてきた文化がつくり出す,文化特異的な要素の2つによって形成される。本研究は,東アジアという地域内で,気候風土条件が類似している韓国と日本の2つの文化を比較し,さらには現在日本で生活する在日韓国人の感情意識構造を比較しようとするものである。 調査は母子相互作用の観察としておこなわれたが,少数のサンプルしか利用できなかったことを考慮に入れるにしても,幼児期の感情意識構造は現在帰属する文化に影響される部分と,祖国の文化的伝統に影響される部分が混在しているという結論を導き出すことができる。それが日本人の「無常」観と韓国人の「恨」の感情構造であり,具体的には母子の身体距離に指標を見つけることができる。すなわち,日本人の母子の身体距離は3歳を前後に遠ざかるのに対して,韓国人母子の身体距離は5歳になっても非常に近い。在日韓国人の母子も,身体距離の取り方においては母国の母親と同じであった。 これは儒教に強く影響されてきた韓国人の意識的構えの結果であると考えられる。すなわち,「家」を重視する古い農本主義の儒教において,女性は男性に対し劣位な社会的立場に置かれ続けてきた。そのことが母親に,男児に対する深い愛着と「家」の継承者としての重要性のコンフリクトを発生させ,回避タイプの愛着を男児に形成させている可能性が指摘できる。逆に女児に対しては社会から抑圧を受ける同じ被害者として,相互依存を強めながらも,時には社会的強者として女児を抑圧してしまうことで,二律背反型の不安定愛着を形成させている可能性が指摘できる。しかし,感情の表出そのものは,帰属する文化の影響を受け,開放的であるという傾向が認められる。帰属する文化と一体化するには三世代以上の時間が必要なのである。
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