1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610328
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Research Category |
Grant-in-Aid for General Scientific Research (C)
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
湯浅 隆 国立歴史民俗博物館, 歴史研究部, 助教授 (20150021)
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Keywords | 蚕書 / 挿し絵 / 絵画 / 博物学 / 日本近世史 / 養蚕業 / 史料学 / 耕織図 |
Research Abstract |
この研究の課題は、近世までに作成された一部の養蚕技術書にある挿し絵にかんし、その画面内容を歴史史料として使用することの妥当性の検討、言い換えれば挿し絵の内容の信憑性を検証することにある。 本年度は、調査対象として該当する約100点の蚕書のうち、挿し絵をもったものを博捜して、各地の図書館・博物館など史料保存機関における調査を行った。その結果、蚕書そのもののなかで、挿し絵を伴ったものはおよそ1/4から1/3ぐらい存在するあろうという見通しをもつに至った。 蚕書のうち、18世紀までに記された約25点のなかで、絵本をも含めて挿し絵をもつものは3点程度に過ぎない。蚕書における挿し絵の利用は、亨和3年(1803)の上垣守国『養蚕秘録』版行を契機として、それ以降のものに散見されるようになる。蚕書のうちで、かなりの頻度で挿し絵が使われるようになるのは天保期以降のことであった。挿し絵をもった蚕書では、その成立年代が古いほど、中国大陸から渡米した耕織図系統諸絵画の影響を色濃く受けていることが明らかになった。 したがって、我が国における蚕書が技術の伝習という意図を明確に示すようになって、挿し絵もまた頻出するという一定の相関関係を認めることができよう。しかし、個々の画面内容を検討すると、画題は耕織図の影響下にあるものがなお多く認められる。したがって、蚕書の挿し絵が、近世文学書の挿し絵の盛行に影響されたものや、やはりこの時期に発達をとげた博物学標本としての色合いをつよくもったものであるかについては、今後の検討課題の大きなひとつになることの見通しがついた。
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