1995 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06610328
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
湯浅 隆 国立歴史民俗博物館, 歴史研究部, 助教授 (20150021)
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Keywords | 養蚕 / 養蚕技術書 / 蚕書 / 耕織図 / 挿絵 / 西欧養蚕国 |
Research Abstract |
我が国の近世に著された蚕書、明治維新期に西ヨーロッパ、ことにフランスおよびイタリアから輸入された養蚕技術書の原本および翻訳書、中国から輸入された耕織図の原本および国内における模写本などに記された、養蚕技術にかんする挿し絵の収集に努めた。 これと並行して、収集した挿し絵の分析をおこなった。この結果、幕末期を除いた江戸時代に描かれた挿し絵は、技術の解説や伝播を意図したものではあっても、なお耕織図の影響を強く受けた絵画としての性格をも色濃くもったものであることが明らかになった。この絵画のもつ装飾性を端的に示した箇所は、蚕育の故事を題材として、蚕書の冒頭部分に描かれることの多い史的解説の部分である。近世後期の蚕書は、この傾向を払拭していく過程であるが、なお耕織図の影響下に留まっていた。 これが明治期に入り、イタリア・フランスの養蚕技術書が輸入され翻訳・出版されるようになると、日本の養蚕技術書に記された挿し絵は急速に筆致を変え、挿図としての位置が与えられていくのである。 我が国と西ヨーロッパ養蚕諸国とのあいだにおける、蚕書の挿し絵にたいする捉え方の差異は、西ヨーロッパで翻訳された日本蚕書の挿し絵の扱いに示されてくる。西ヨーロッパでは、当初は装飾的な画題であっても技術図解の挿図として捉え、正確な臨写を試みていた。 以上のことから、我が国の江戸時代をとおして描かれた挿し絵は、技術的な図解を意図したものとは必ずしも一致しないものである、という見解をつよくもつようになった。
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