1996 Fiscal Year Annual Research Report
明治初期騒援裁判における司法権をめぐる司法省と大蔵省の相剋に関する研究
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06620007
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Research Institution | Matsusaka University |
Principal Investigator |
上野 利三 松阪大学, 政治経済学部, 教授 (70151818)
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Keywords | 日本近代司法制度 / 大蔵省 / 司法省 / 即決処分 / 騒援事件 / 廃藩置県 / 死刑制度 / 太政官 |
Research Abstract |
明治初期に全国各地で発生した暴動事件の司法的処理の過程において、首謀者の処罰が本来主管すべきはずの司法省ではなく、大蔵省の出した即決処分指令に基づいて行われるケースが度々見られた。この即決処分は騒乱鎮圧の特別措置として、死刑をも含む逮捕者の処罰権の一切を地方官の裁判に委ね、速かに刑を執行するというものである。元々県治条例の規定では地方官の専決できる刑罰の範囲は流刑以下であり、死刑の場合はまず司法省に伺出て勅裁を仰ぐという手続きが必要であった。従って大蔵省主導の裁判では手続きに問題があり、以来司法・大蔵両省間に司法権をめぐる権限争いが発生した。明治4年に全国の裁判機構の頂点に立った司法省の前に、各府県の裁判権を管掌する地方官を監督する大蔵省が大きく立ちはだかっていたのである。何故大蔵省はそうした指令を出す権限をもちうると考えたのか、というのが本研究で明らかにしたい点であったが、その目的のためには、明治4年以降の各地の事件裁判の実例を取り上げ、できる限り詳細かつ正確にたどることが必須の前提であった。平成6・7年度では主としてこの時期の事件の事例研究を行った。ところで司法省との紛議の中で大蔵省は、指令を出した根拠の一つに廃藩置県の際に、藩士引留騒動の首謀者の即決処置として出された太政官布告の存在を指摘し、それに準じた旨釈明している。この引留騒動は全国に5藩の例が見受けられる(広島・福山・高松・大洲・高地の諸藩)。8年度はこのうち高知藩(高知県)の膏取騒動の調査研究に大部の時間をさいた。また廃藩置県以前においても、騒援事件の処理に民部省が当たった事例がある(明治3年松代藩・4年菊間・西尾・岡崎藩での一揆)。民部省はのちに大蔵省に併合されるので大蔵省の刑事裁判への干渉は、この流れとの関連で考えて見る必要があろう。いずれにしても、明治初期の刑事裁判の系統には刑部省-司法省の流れと、民部省-大蔵省の流れとかあることが判明する。何分広範囲の調査と資料蒐集を心がけてきたが、未だ解決された部分はわずかである。とはいえ本研究は、従前の日本近代司法制度史研究では殆ど手つかずの状況であった叙上の問題に曙光を当て、初期司法権を論じる際には避けて通れないものであるといえよう。
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