Research Abstract |
肝細胞増殖因子(HGF)は肝再生促進因子の本体であると考えられている.既に,ヒト胎児肺由来線維芽細胞系(IMR-90およびMRC-5)を用いたヒトHGF(hHGF)産生調節機構の研究の過程で,これら両細胞系におけるhHGF産生が培養内加齢とともに顕著に増加することを見出している.つまり,約70PDLのほぼ老化した細胞は,約40PDLの比較的若い細胞に比べて単位細胞数当り約3倍量のhHGFを産生することを明らかにした.そこで本年度は,(1)ヒト胎児肺由来線維芽細胞によるhHGF産生が培養内加齢に伴なって連続的に徐々に増加するのか,(2)あるいはある特定のPDLから急速に増加し始めるのか,(3)hHGF産生制御因子(IL-1,PMA,cAMP,TNF-α,DEX,TGF-β)に対する応答性は培養内加齢に伴なって変化するか,(4)培養内加齢に伴なうhHGFの産生増加はどの様な機構によるのかについて検討した. まず,IMR-90やMRC-5以外のヒト胎児肺由来線維芽細胞系(TIG-7: 14.6,26.1,37.4,47.0,56.4,64.8,75.6PDL; WI-38:24.4,36.1,43.6PDL)におけるhHGF産生を調べたところ,TIG-7細胞のhHGF産生はPDL56.4から急激に増加した.PDL56.4はこの細胞の培養内寿命の約65%に当たる.一方,WI-38細胞のhHGF産生はPDL24.4(培養内寿命の約45%に相当)からに増加した.このように,培養内加齢に伴なうhHGF産生の増加は,IMR-90やMRC-5細胞系だけではなく,その他のヒト胎児肺由来線維芽細胞系(TIG-7およびWI-38)にも認められることがわかった.また,ヒト胎児肺由来線維芽細胞によるhHGF産生は培養内加齢に伴なって連続的に徐々に増加するのではなく,培養内寿命の約45〜65%の時点から急激に増加することも明かとなった.さらに,これらの細胞系におけるhHGF産生増加がhHGF遺伝子の転写レベルの上昇に基づくことも明らかにした. これらの細胞系について,hHGF産生制御因子(促進因子:PMA,IL-1,TNF-α;抑制因子:DEX,TGF-β1)に対する応答性を調べた結果,いずれの細胞系においてもPMA,DEXならびにTGF-βに対する応答性は培養内加齢とは無関係に変化しなかった.しかし,IL-1やTNF-αなどの促進因子に対する応答性は培養内加齢に伴って減弱する傾向が認められた.一方,ノーザン・ブロット分析により老化細胞においてのみIL-1β遺伝子の発現が認められた.また,IL-1αによるIL-1β遺伝子の発現誘導も培養内加齢に伴って増強した.これらの結果より,培養内加齢に伴うhHGF産生増加がIL-1β遺伝子の発現増加に一部起因している可能性が考えられた.
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