Research Abstract |
症例および方法:肺癌の脳転移が認められた元歯科技工士(84歳,男性)の病理解剖を経験し,左肺の上葉と下葉,右肺の上葉,中葉と下葉,そして肝および腎のほぼ中心部をそれぞれ1cm^3摘出し,凍結乾燥した.その後,熱中性子放射化分析法により各試料中のAu,Co,Cr,Cu,Fe,Hg,Mg,Mn,Sb,Se,VおよびZnの元素濃度を,標準試料との比較定量によって測定した.また,対照として(肝癌,58歳,女性事務職),(心筋梗塞,73歳,女性,無職),(狭心症,78歳,男性,住職),(肺癌,68歳,男性,無職),(狭心症,74歳,男性,飲料水おろし業),(肺癌,70歳,男性,鉄工所)6例の患者の剖検から得られた肺,肝および腎の組織についても病理組織学的に観察し,それぞれに含まれる各種金属の濃度を測定した.さらに,元歯科技工士の症例については右肺18カ所,左肺14カ所について測定し,各種金属の沈着と肺における局在を調べた. 結果:元歯科技工士の肺ではその他の職種と比較し,Au,Co,Cr,VおよびZnの濃度が増加し,とくにAuは0.83〜24.1ppmと対照(0.000〜0.033ppm)に比較し高濃度で沈着していた.また,これらの金属(Au)は右肺(上葉 平均 3.81ppm,中葉 平均 2.47ppm,下葉 平均 3.14ppm)そして左肺(上葉 平均 9.81ppm,下葉 平均 4.74ppm)と右肺より左肺で,下葉および中葉より上葉で多く検出された.Au,Co,Cr,VおよびZnの金属は一般に歯科で用いられる金属にかなり含まれており,歯科技工職を退いて10年近く経過しても,なお肺に残存することが明らかになった.したがって,保健衛生上,歯科診療所および歯科技工所の職場環境の改善が望まれる.
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