1994 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06803002
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Research Category |
Grant-in-Aid for General Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮崎 元 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (10229833)
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Keywords | 総合商社 / 学習効果 / 規模の経済性 / 範囲の経済性 / 競合市場 |
Research Abstract |
研究初期の段階で当研究者は、「学習効果」が多期間にわたる「規模の経済性」をもたらすことに直観的なアイデアを得た。「学習効果」を分析した結果、総合商社の産業組織が理想的な競合市場の条件を満たしていても、市場均衡における「学習努力」は社会的な最適水準に整合しないことが判明した。熾烈な競合条件の下でも、既存の企業が新規参入を阻止するために市場の初期の段階で過剰な「学習努力」を遂行し、逆に中後期では「学習努力」を不十分にするという仮説に妥当性のあることが判明した。「学習効果」による「範囲の経済」は総合商社の生産要素間における補完性の一面にすぎないが、競合市場均衡の社会的な非最適性を「学習効果」の結果として指摘するのは、産業組織論としては新しいアプローチであると思われる。従来の競合市場の分析では、過当競争のもたらす市場の不安定性-つまり安定均衡が存在しないこと-が競合市場の社会的非最適性の最大要因とみなされていた。「学習効果」は総合商社産業の内部だけでなく他の市場セクターへの外的経済性を伴うので、産業政策に関して興味深い含蓄があると考えられる。総合商社の過去20年間の業務内容を調べると、総合商社の主要市場が、単なる大量取引への依存から「学習効果」が戦略的に顕著な市場へ移行していると考えられる。「学習効果」、規模の効果、そして多期間にわたる範囲の経済性の相互作用を認識することは、総合商社の企業行動を理解するためのモデル分析にとって有用であると思われる。 競合市場における多市場間の学習効果の分析は、動学的な産業組織論構築への手がかりになると考えられ、研究計画全体の中では重要な課題である。しかし、総合商社を産業組織論の分析対象とするにあたって不可欠な作業は、総合商社の市場環境と業務範囲に関するデータを整理して、モデル分析のための「様式化された事実(stylized facts)」を抽出することである。多市場間にまたがる需要関数と多種産出の費用関数をstylized factsに沿って特定化することは、モデルの応用と実用化に欠かせない。初年度(平成6年)には、このstylized factsに関する作業の開始が遅れたので、2年目(平成7年)に取り戻す予定てある。この遅延は「学習効果のモデル分析」を遂行したために起こった作業時間の代替のためである。本年度に展開したモデル分析は3ケ年計画の原案より先行して平成8年度の計画の一部を遂行したことになるが、規模と範囲に関する寡占理論は比較的未発達なので、研究計画全体としては有益であったと評価している。「学習効果」の論文は執筆中であり、平成7年4月以降に審査制ジャーナルに投稿の予定である。
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