Research Abstract |
本年度は,「市場社会の人間学」の構築のため,1.ヒューム研究,2.ジンメル研究,3.現代哲学・思想・社会科学の再検討の三つの作業を行った。 1.については,ヒュームのコンベンションが,対面社会と大社会の両面で提起されており,それらを統一的に理解する術が,『人性論』の,知性,情緒・徳性の全体構造の再解釈に求められるのではないかという観点から,研究を進めた。 2.については,ジンメルの貨幣の基盤となる「信頼」が,社会的相互作用からいかに生まれるか,に焦点をしぼった。人間的生が相互作用の中で分節化してゆくとき、主観的精神と客観的精神の亀裂が生じるが,その両者を高次に折り合わせる生の様式が,信頼に対応すると解される。類似の亀裂は,ハイデガ-の,死への存在と共存在の関係にも見てとれる。 3.では主として,シュムペーターの慣行軌道と革新の緊張関係,ドゥルーズの時間概念を検討した。後者の限界を乗りきり,時間概念とコンベンション,生の様式の関連を考えることが今後の課題として残る。またベイトソン,ハバーマスらのコミュニケーション概念を検討したが,さらに言語論,システム論,ネットワーク組織論,自己組織性論を摂取し,ヒューム論,ジンメル論と統合する必要がある。 以上の作業を基礎として,ハイエク体系を検討し,そこから「経済人」概念の批判と,市場社会論としての経済学の脱構築を図ることが,次年度の最終目標である。積極的構築の軸は,市場社会をつくる市場要素と非市場要素の適合・乖離・再調整の様式にあると,見当をつけているが,そのためには近接した問題意識をもつ,ヴェブレンら制度学派,ミ-ゼス,カ-ズナ-らハイエクの前後に位置するウィーン学派の研究も必要となる。
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