Research Abstract |
本研究の目的は,英語の話し言葉で第三者を言及する際に用いられる形式(reference forms,以下RF)の使用実態を,特にLN(last name alone),FN-LN(first name-last name)使用に焦点を当てて調査し,それらの形式選択がどのような社会的,心理的要因によって行われるかを明らかにすることにあった.方法としては,先行研究を検討し,広範囲にわたって話し言葉におけるRFを抽出,分析するとともに,英語話者に対する対面聴き取り調査を行った. 現時点で明らかになったのは次の点である.1.一般に有名人に対する言及においては,書き言葉同様,言及される人(referent,以下R)の性別を問わず,最初の言及でFN-LN,2度目以降の言及でLNを用いるという形式が確立しつつある.ことにRが政治家等公人,学者,スポーツ選手の場合にその傾向が強い.Rが芸能人,時の人(事件などで有名になった一般の人)の場合も,この形式が標準となりつつあるが,2度目以降の言及において男はLNで,女はFN-LN(稀にTitle+LN)で言及する場合も依然として多い.2.一般の人に対する言及においては,話し手が人を非個人的な調子で事務的に言及する状況では,Rが芸能人,時の人である場合と同様の傾向が見られるが,2度目以降の言及で,女のRに対するTitle+LNがそれほど稀ではない点が特徴として挙げられる.以上2点をまとめると,有名人及び非個人的な調子で一般人に対して用いられるRFにおいては,Rの性を問わず,LNが主要な形式となりつつあると言えよう.女のRに対してはFN-LNが用いられることが依然として多いが,漸次LNに移行するものと予想される.LNが独立・成熟性を暗示するいわば強者のRFであることを考えれば,女の社会進出に伴うこの移行は十分首肯できるように思われる.
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