物質流入に伴う釧路湿原湖沼生態系の環境悪化と再生方策に関する研究

2006 Fiscal Year Annual Research Report

• Project/Area Number: 06F06208
• Research Institution: Hokkaido University
• Principal Investigator: 中村 太士 北海道大学, 大学院農学研究院, 教授
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 安 榮相 北海道大学, 大学院農学研究院, 外国人特別研究員
• Keywords: 釧路湿原 / 土地改変 / 浮遊土砂 / 栄養塩類 / 生態系悪化 / 湖沼生態系保全

Research Abstract

釧路湿原は流域の過度な土地改変による浮遊土砂と栄養塩類の流出に伴う生態系の悪化が進んでおり、湿原内の3湖(達古武湖・シラルトロ湖・塘路湖)でも土砂堆積による湖の浅化と陸地化、水質悪化、生物種の減少などが発生している。湿原の環境保全のため、対策を樹立し、活発な環境保全活動が展開されているが、湿原と比べて湖での研究はまだ少なく、湖沼生態系の悪化原因を明らかにした研究はない。そのため釧路湿原内の湖環境保全の対策樹立が難しい。本年度(平成18年)の研究目的は、釧路湿原内湖の環境保全対策を樹立するため、3湖における、湖環境を悪化させる原因である栄養塩類(全窒素・全リン)の動態を把握及び長期間の土砂堆積速度を明らかにすることである。
釧路湿原内の3湖における浮遊土砂と栄養塩類(全窒素・全リン)のモニタリングの結果、3湖の流出河川は釧路川と合流するため、増水時に釧路川の流水が湖へ流入(逆流)する現象が把握された。浮遊土砂及び全窒素・全リンの流入に伴う富栄養化、植物プランクトンの増加による透明度の低下が水草の種類・現存量を減少するという自然環境の劣化につながっていると考えられた。また、長期間の土砂堆積速度の実態を推定するために塘路湖底コアを採取し、湖底堆積物に発見された2層の火山灰判別と放射性同位体濃度(^<137>Cs)を測定した。釧路湿原には2層の火山灰が多く分布しており、下層は駒ケ岳-c2(1694年)と上層は樽前-a(1739年)である。^<137>Csは1960年代の大気核実験の際に放出された放射性降下物で、その降下量は1963年にピークがある。2つの火山灰と^<137>Csにより過去300年間の土砂堆積実態を把握すると、流域開発が進んだ1963年以後は最も土砂堆積量が多く、人間活動が少なかったと思われる1963年以前に比べて約4倍であり、浅化は著しく進んでいることが分かった。
現在、本年度に研究した結果を分析し、国際誌投稿を目指して論文を書いており、今後釧路湿原の湖沼生態系保全のための基礎資料を提供できると考える。