2006 Fiscal Year Annual Research Report
バリの宗教に関する研究-ヒンドゥー教と仏教のシンクレティズムについて
Project/Area Number |
06F06303
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
安藤 充 愛知学院大学, 文学部, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SUGENG Tanto 愛知学院大学, 文学部, 外国人特別研究員
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Keywords | バリ / ヒンドゥー教 / 仏教 / Sutasoma / シヴァ=ブッダ信仰 |
Research Abstract |
本年度は研究費交付が決まって4か月ほどの期間しかなかったが、バリの宗教に関する基礎的な文献資料の収集と整理にとりかかる一方、バリにおけるシヴァ=ブッダ信仰に関して、バリに伝承された14世紀の古ジャワ語文学作品"Sutasoma"の読解を主として、文献にもとづいた分析を進めた。 時間的な制約からも、学会発表や論文による成果の公開には至らなかったが、"Sutasoma"からいくつかの特徴を読み取ることができた。その主な点は次の通りである。 1)著者Mpu Tantularは、シヴァ教も仏教も異なるが一つと述べる一方、シヴァ教よりも仏教の方が解脱に至る早道であると説く。これは往時、支配者がシヴァ教の方を奉じていて、仏教が相対的には弱い立場にあった中で、著者が巧みに仏教を公認の宗教として認められるよう描いたとみなすことができるだろう。ただし同時代の古ジャワ語の史書"Nagarakrtagama"において、シヴァ教と仏教にはそれぞれ別個に担当の役人が配されており、仏教が偏向的に抑圧されていたわけではない。 2)このテキストで言及されるシヴァ教と仏教は、インドのそれらとは隔たりがある。例えばバイラワ儀礼はジャワの神秘主義の影響をうけていることが見て取れる。 3)Bhatara Guruという神格は、ジャワ及びバリに特異な存在である。呼称としてシヴァ神と同定する文献が多いが、ブラフマー・ビシュヌ・シヴァのヒンドゥー三神を超越する別神格ともいわれ、あるいは、"Kunjarakarna"という古ジャワ語仏教文献では、Wairocanaをシヴァ及びブッダの顕現としてBhatara Guruと結びつけている。したがって、Bhatara Guruという表現やその意味するところを古ジャワ文献で網羅的に綿密に研究することが、シヴァ=ブッダ信仰のあり方の解明にも重要であると思われる。
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