2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06F06767
|
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
西野 春雄 法政大学, 能楽研究所, 教授
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
RUMANEK Ivan 法政大学, 能楽研究所, 外国人特別研究員
|
Keywords | 詩劇 / 能 / 謡曲 / 世阿弥 / 翻訳 / 松風 / 修辞技法 / 風姿花伝 |
Research Abstract |
日本の中世に生まれ現代に生きる、詩と劇と音楽が綜合された詩劇としての「能」は、今日、国境や民族を超えて世界の人々の共感を得ている。しかし、研究分担者ルマネクの母国スロバキアには、能のテキストである謡曲の翻訳もなく、世阿弥の芸術論の翻訳もない。本研究の目的は、研究代表者西野春雄の指導のもと、能の名作と世阿弥の芸術論の翻訳を通して、スロバキアの人々に、能の魅力と世阿弥芸術論の特質を伝えることを第一としている。 初年度は、ルマネクの来日が2006年11月28日という事情もあり、日本での研究開始は12月になったが、それまでの下準備を生かし、観阿弥の原作を世阿弥が改作した名曲「松風」の翻訳に挑戦し、完成させた。「松風」を選んだ理由は、詩人野口米次郎が「景情兼ね備はる詩劇の逸品は松風の一番に止めを刺す」と絶賛したように優れて詩的な夢幻能であり、チェコ語訳はあるものの、「松」に「待つ」を掛ける掛詞などの修辞技法が反映されていないからである。工夫を重ねた結果、拙訳は、日本語の美しさと詩的な趣きを、スロバキア語に訳出し得たように思う。 また、能の翻訳には、能本の適切な読みが求められるのは当然であるが、同時に能の上演に直接触れる機会もまた大切である。日本に居てこそ可能なことで、分担者は、国立能楽堂での公演を中心に鑑賞た努めた。鑑賞した主な作品は「高砂・鵜羽・田村・清経・東北・羽衣・自然居士・鞍馬天狗・船弁慶・鵜飼・野守」等である。事前に時間をかけて能本を読み、観劇中は、登場人物の面・装束、発音・抑揚から、全体の印象や感想までメモするよう努めた。公演日時・曲目・演者も記した鑑賞記録は、将来、謡の旋律やアクセントなどの研究に生かしたいと考えている。 世阿弥の芸術論に関しては、『風姿花伝』に取り組んだ。能の専門用語が頻出し、それらをスロバキア語に、どう移し、どう訳すか、難しく、試行錯誤を重ねているが、それらを解決した後、本格的に進める所存である。
|