Research Abstract |
本研究の目的は,レム睡眠中における夢の発生メカニズムを検討し,夢の客観的指標の呈示を試みるものである. これまで著者はヒトを対象とすることで,レム睡眠中の急速眼球運動(REMs)に伴い,前頭部,中心部および後頭部視覚野の活動(脳電位活動)が生じることを示し,これらの脳活動が夢の生成と関連する可能性を示唆した.今日,先行研究により夢の発生メカニズムに関しておよそ分かってきている.レム睡眠中にはREMsおよびレム睡眠の中枢である脳幹(橋・延髄)から投射される神経刺激により,大脳皮質が活性化し,脳内に感覚イメージ体験が生じ,それを夢として体験しているというものである.しかし,この脳幹と皮質の繋がりを客観的に示した研究はこれまでない.これに対して,著者が示したREMsに伴う脳電位活動は,この脳幹による皮質の活性化の様子をREMsを介して間接的に示した結果であるといえる.しかし,健常なヒトを対象とした脳電位研究ではこれ以上脳幹と皮質の繋がりを直接検討することは困難となる,そこで本年度(平成19年度)は,フィールドを動物(ラット)へと移し,CNRS UMR5167(リヨン第一大学内)にてレム睡眠中の脳幹と皮質の繋がりを直接検討することとした. ラットのレム睡眠中には特有の脳波活動(シータ波)が観察される.シータ波は海馬から発生し,夢見との関連が示唆されている.レム睡眠中には脳幹から視床下部に存在する乳頭体上核,海馬の歯状回へと指令が行き,シータ波が発生すると考えられ,このシータ波がレム睡眠中の皮質活動と密接に関連すると予測されている.そこで本研究では,脳幹と皮質を繋ぐ乳頭体上核の活動を一時的に抑制または破壊することで歯状回および皮質への影響を検討することとした.現在までの検討により,乳頭体上核を抑制することでシータ帯域の周波数低下・パワ値の増大が認められ(local field potential検討),破壊することで皮質活性が抑制されること(免疫組織学的検討:c-fos)が示された.この結果は,乳頭体上核がレム睡眠中における皮質活動の重要な役割を担っている可能性を示唆している.なお本研究内容は,CNRS UMR5167(リヨン第一大学内)倫理委員会で承認を得て行っている.
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