Research Abstract |
今年度は,さまざまなインビジブル・マイノリティ--ハンセン病退所者および家族遺族,被差別部落出身者,性的マイノリティ,在日コリアン,アイヌなど--の当事者たちからの,ライフストーリー聞き取りと,その資料化の作業をすすめてきた。また,それぞれのテーマにかかわる現場(ハンセン病療養所や被差別部落等)へのフィールドワークをおこない,理解を深め,集会や研究会等に随時参加し,当事者たちとの良好な関係の構築につとめた。 今年度中に,聞き取り作業をおこない音声データを得ることができたのは,約30人。今年度中に,聞き取り音声データをトランスクリプトし,分析を加えて資料化することができたのは,12事例である。インビジブル・マイノリテイにむけられた社会的な力やまなざしは,時代状況を反映しながら,これらライフストーリーの諸事例に,如実にあらわれている。なおかつ,その人生への影響の現れ方と,それに対処するための戦略のあり方は,語り手各人がもつ位置性のちがい--性別,年代,地域,階層,パーソナリティ等々--によって,それぞれに固有である。これらライフストーリーの諸事例は,それ自体が貴重な記録であり,かつまた,あらたな理論形成のための土台となるものでもある。 なかでも,ハンセン病《家族遺族》たちをテーマとした研究は,管見によれば,これまでにほとんど存在してこなかった。ましてや,ある程度まとまった人数の当事者から,そのライフストーリーを聞き取ることができた調査研究は,--わたしが調査補助者としてかかわり,2004年秋に5人の《家族遺族》たちからライフストーリー聞き取り調査をおこなった「ハンセン病問題に関する検証会議」の被害実態調査をのぞいて--皆無に等しい。本研究で得られた,この領域の諸事例の資料としての価値は,ますます大きいものとなっている。
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