2006 Fiscal Year Annual Research Report
契約法における「公正」の原理-米国非良心性法理を手がかりに
Project/Area Number |
06J00758
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
牧 佐智代 神戸大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 非良心性 / UCC / アメリカ契約法 |
Research Abstract |
1980年代以降、我が国民法学の伝統的な意思表示法理である詐欺や強迫の要件を充足するとは言えないがなお何らかの不公正さが生じているが故に、法は何らかの救済を与えるべきであるとされるような取引が問題視されて、様々な解決策が論じられてきた。例えばドイツ法の研究を中心とした契約締結上の過失論、詐欺法理の再構成、情報提供義務(説明義務)論等が盛んであるが、アメリカ契約法における非良心性法理についての研究は十分とは言い難い。 今年度は、第一に、非良心性法理についてのアメリカにおける議論を検討することで、次のことが明らかとなった。非良心性法理とは、UCC2-302条の規定にも見て取れるように、「非良心性」とは何かという定義については明示されておらず、学説は当初この具体的基準を定立することを専ら目的としていた。その結果、非良心性には、契約内容の不公正さを問題とする実質的非良心性と、契約締結過程(契約環境)の不公正さを問題とする手続的非良心性の二側面があることが明らかにされたが、それぞれの具体的考慮要素や基準については未だ具体性を欠くものであるとの批判や、詐欺・強迫・不当威圧等の伝統的法理の援用が可能な事例でも安易に非良心性法理が用いられているとの批判などが為され、議論はいったん収束するかに見えた。しかし、法の経済学的アプローチから、近年改めて非良心性法理の議論が活発となり、例えば当該契約を無効とすることで市場全体に与えるインパクトという視点や、正当な同意を与えるためのコストの観点から非良心性法理を含めた契約法の横断的な救済方法の選択についての具体的運用指針を呈示するなど、新たな展開が見られている。 以上のようなアメリカにおける理論動向の把握を行うのと同時並行で、今年度は第二に、手続的非良心性という契約締結過程を規律する側面についての具体的検討を深めるために、契約締結過程の規律法理として現在我が国において最も議論の活発な「説明義務」を検討すべく最高裁判例研究を行い、その成果として判例評釈を公表した。
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