Research Abstract |
本研究では,持続的な地域資源の維持管理システム(農業生産活動・環境維持活動等)の確立に資する政策の評価手法を構築することを課題とする。方法論としてマルチエージェントシミュレーションを適用し,諸活動の計画策定過程において,討議の充実を図る効果的な情報提供すること,そして問題意識の啓発を目的とする。 本研究はモデル構築と実証の2つの段階に分けられる。まずモデル構築段階の第1課題として,立場や意向の異なる主体間のコンフリクトや選好関係等による行動選択のメカニズムを精緻化し,基礎となるシミュレーションモデルの構造を構築する。第2課題として,リアルな結果の表現方法を追求するだけではなく,様々な情報を組み込み,操作することが可能なGIS(地理情報システム)との本格的な連携を試みる。第3課題として,アンケート調査項目からデータのインプットまでの手順を標準化し,モデルの操作性を向上させ,普及に向けてインターフェースを向上させる。さらにモデルの実証段階では,第1課題として,現実の議論の状況を人工社会で再現し,行動選択の結果に関する将来予測情報や,仮想シナリオのシミュレーション解析に基づく効果的な情報を現場へと逐次フィードバックすることで,より質の高い討議及び合意形成を推進する。そして第2課題として,最終的にマルチエージェントシミュレーションを活用したシナリオワークショップが,地域共同活動(組織的農業経営含む)に向けた関係主体の能動的態度の醸成,或いは合意形成にどの程度寄与したかに関して,緻密に検証を進める。 まず,これまでの仮想空間を用いた実験的検討,或いは実際の対象地のデータを用いてモデルの構築を行った研究により,モデルのプロトタイプが完成した。さらに,研究成果1(農林業問題研究)及び2(WCSS 2006 proceedings)では,構築したモデルを用いて,集落営農の組織化の効果を予測し,19年度より本格試行する品目横断型経営所得安定対策に対応した地域農業ビジョンの策定の必要性を示した。次いで,大規模水田農業地域を対象に,農家・非農家の共同活動による資源保全施策の意義を示した研究成果3(農村計画学会誌)では,非農家の協力なくしては,農業経営の継続が困難であるが,その労賃の原資として施策による助成金が必要不可欠であると結論づけられた。 残された課題として,精緻化に関わる改良を行うと共に,現場へのフィードバック効果を検証することが必要であり,引き続き実証的調査・研究を進める。
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