Research Abstract |
偶蹄目,奇蹄目,長鼻目および双前歯目に分類される6科21種163頭の希少草食動物を対象として,その種保全に有効となり得る繁殖生理の非侵襲的モニタリング法を確立し,この方法により各動物種の繁殖生理を明らかにすることを目的とした。 1.糞からメタノールを用いて性ステロイドホルモンあるいはその代謝物を抽出する方法を確立し,プロジェステロン(P_4)等のプロジェスチン,エストラジオールー17β(E_2)等のエストロジェン,アンドロステンジオン等のアンドロジェンのいくつかの抗体を用いたEIAでの各測定系を作製した。 2.血中のステロイドホルモンが糞へ代謝排泄されるのに要する時間を調査した。バーラルの血中と糞中のP_4,E_2およびエストロンの各動態の比較から,糞中での動態は約2日前の血中動態を反映したものと考えられた。また,様々な希少草食動物のステロイドホルモン排泄時間と消化管滞留時間を調査した結果,両時間はほぼ同程度であり,例えば多くのウシ科は1〜2日以内であることが示唆された。 3.雌個体では,糞中プロジェスチンまたはエストロジェンの測定により,大型アンテロープ類,ターキン,キリン,オカピ,インドサイ,ゾウおよびコアラの卵巣活動,発情周期,繁殖季節あるいは妊娠,雄ではアンドロジェンの測定により,バーラル,ターキン,ゾウおよびコアラの精巣活動やゾウのマストなどの繁殖生理を明らかにした。 以上の繁殖生理に関する内分泌学的データは,動物園での希少種繁殖計画に役立つばかりでなく,糞を用いた内分泌モニタリング法により,野生個体の繁殖生態学的調査も可能になるものと思われた。
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