Research Abstract |
サンゴは炭酸カルシウム(アラレ石)からなる骨格を形成しながら成長するが,この時,周囲の水温や塩分などの環境因子や海水の各種化学成分などがこの骨格に記録されると考えられている.ハマサンゴ属のような塊状群体の年輪は,このような古海洋環境変遷を明らかにするのに有用である.しかし最近の研究では,海水温の指標となる酸素同位体比やストロンチウム・カルシウム比がサンゴ骨格の成長速度という生物学的パラメータに依存している可能性が指摘され,海洋環境が正確に記録されていない可能性が懸念されている.そこで本年度は海水温を21,23,25,27,29℃の5段階に設定したサンゴの飼育実験を行った.それぞれの温度区で約6ヶ月間飼育したサンゴの骨格中の微量元素測定の結果,ストロンチウム・カルシウム比と海水温との間によい相関関係が見られたが,ウラン・カルシウム比については明確な関係が認められなかった.さらに注目すべきは,これまで海水温の指標として考えられていたマグネシウム・カルシウム比が温度ではなく,成長速度の影響を強く受けていたことである. また,次年度以降に大気中二酸化炭素濃度の指標となることが指摘されているサンゴ骨格中のホウ素同位体比について,飼育実験・測定を行い,大気中二酸化炭素濃度の差が大きい最終氷期,後氷期(産業革命以前),現在における海水中のpHを復元する予定である.この研究においては,化石サンゴの精密な年代測定が必要なため,今年度は化石サンゴのウラン・トリウム年代測定に関する高い技術と実績をもつアメリカ・ミネソタ大学地質・地球物理学科に滞在し,分析に関する技術の習得を行った.
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