2006 Fiscal Year Annual Research Report
熱電変換材料として有望な正20面体準結晶・近似結晶の陽電子消滅法による評価
Project/Area Number |
06J01593
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高際 良樹 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 熱電変換材料 / 正20面体クラスター固体 / A1系準結晶・近似結晶 / 陽電子消滅法 |
Research Abstract |
Al系準結晶の代表的な近似結晶は、基本クラスターがAl正20面体クラスターで構成されており、基本クラスターの中心原子の有無といった僅かな構造的な変化により、原子間結合性が変化する「金属結合-共有結合転換」の発現がMEM/Rietveld解析により実験的に明らかになっている。Al以外の元素からなる基本クラスターの場合に、また、中心原子が存在する場合とそうでない場合の原子問結合性にどのような変化が生じているかが興味深い。そこで初めに、基本クラスターが上記と異なる構造を有する、1/1-AlPdMnSi及び2/1-AlPdMnSi近似結晶の単相試料の作製を試みた。比較のために、i-Al-Pd-Mn準結晶、1/0-Al_<12>Re近似結晶の単相試料の作製を行い、電気物性測定及び陽電子消滅寿命測定を行った。電気物性測定の結果、以下の傾向が見られた。 (i)電気抵抗:1/1-AlPdMnSi、2/1-AlPdMnSi、i-Al-Pd-Mnの順に有意に抵抗が高くなり、近似度が高くなるにつれて準結晶に近づいた。 (ii)Seebeck係数:Seebeck係数の絶対値及び温度依存性ともに、近似度が高くなるにつれて絶対値も温度依存性も準結晶に近づいた。また、1/1-AlPdMnSi近似結晶はおよそ600K付近でpn転換を起こす。これは2/1-AlPdMnSi近似結晶及び準結晶では見られない傾向であり興味深い。 以上の結果から、近似度が高くなるにつれて準結晶に近づいているという従来の見解に近い傾向が得られたが、個々のクラスターに着目し原子問結合性を正確に評価することが、電気物性のさらなる理解に不可欠である。解析に必要なデータをSPring-8で取得し、現在、MEM/Rietveld解析が進行中であり、新たな知見が得られることが期待される。 陽電子消滅寿命測定の結果、クラスター中心の空孔がない1/0-Al_<12>Re近似結晶では、単一成分の純金属に近い(bulk)寿命値が得られたのに対し、(1/1,2/1-)AlPdMnSi近似結晶及びi-Al-Pd-Mn準結晶では半導体よりも40ps程度長い、単空孔サイズの欠陥成分が単一寿命で得られた。このことは、電子線照射などにより生じた不安定な原子空孔とは本質的に異なり、構造的に安定な空孔がi-Al-Pd-Mn準結晶及びその近似結晶に存在することを示している。以上の結果を2007日本物理学会春期大会で発表した。 また、i-Al-Pd-ReにRe-Ru置換をしたi-Al-Pd-Re-Ru準結晶に対して陽電子消滅寿命測定を行った。そめ結果、電気抵抗と陽電子捕獲率のRe-Ru置換依存性が類似しており、構造的な安定性をもった空孔がbulk電気物性に影響を与える可能性が示唆された。以上の結果を、陽電子国際会議にてPosterによる発表を行った。また、Physica Status Solidiに投稿し、採録された。
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