2006 Fiscal Year Annual Research Report
初期近代西欧の建築・庭園空間における百科全書的知識の表象と記憶術的空間構成の原理
Project/Area Number |
06J01965
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
桑木野 幸司 千葉大学, 工学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 記憶術 / 初期近代 / 百科全書主義 / コレクション / 建築史 / 美術史 / イタリア / 精神史 |
Research Abstract |
初期近代における空間造形原理を考察するために、16世紀の記憶術論、建築論、庭園論、ミュージアム論の分析を行った。重点的に分析したのは、ザムエル・クヴィヒェベルク『広壮なる劇場の銘あるいは標題』(ミュンヘン、1565年)、コスマ・ロッセッリ『人工記憶の宝庫』(ヴェネツィア、1579年)である。 『劇場の銘』は、理想的な百科全書的コレクションを構築するための指南書である。本書で提唱されるミュージアムでは、収集品が、対比、類似、差異等の修辞学的トポスの基準に従って展示されていることが、分析の結果明らかになった。そこからさらに、当時の修辞学と強い関連をもっていた記憶術ならびにメソッド論といった知的潮流とも、同ミュージアム空間が通底することを明らかにした。文字情報を組織・整理するための各種知的方法論やデータベース構築の理論が、建築空間の造形原理としても応用されていた点を、初めて実証的に指摘することに成功した。 一方『人工記憶の宝庫』は、精神内に、記憶の基盤となる仮想建築空間を構築する方法を述べた記憶術論である。このテクストを建築史学の観点から分析し、当時の記憶術に、同時代の古典主義建築や都市計画の影響が見られることを明らかにした。その成果を、現在論文にまとめている。 これらの事例から、初期近代の一部の建築にみられる、ある特別な造形原理の存在が指摘可能となる。すなわち、情報処理のために精神内に仮想的に構築する建築空間が、同時代の実際の物理的空間と相互影響関係にあったこと、また、それらの建築空間が、視点の移動やシーンの連続的展開(=情報の検索)、さらには空間の変容(=情報のイメージ化、空間配置)等を前提に作られていたこと、である。これは、静的なルネサンス建築とも、擬似的な動的感覚を生み出すバロック建築とも異なる、文字通りの「動き」や「変容」を前提とした初期近代の特別な建築群といえる。
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