2006 Fiscal Year Annual Research Report
中世盛期フランスにおける記憶の管理と記述史料の役割
Project/Area Number |
06J02154
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松尾 佳代子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 記憶の管理 / カルチュレール / 記述史料 |
Research Abstract |
1.本年度は、本研究の第一課題「修道院カルチュレールにおける「記憶の管理」」の研究成果を、公表に向けて論文に取りまとめた(現在校正中)。まず、カルチュレール研究の興隆の背景として、言語論的転回の影響で活気づいた文書史料論と、中世西欧の記述文化研究の展開を整理した。次に、12世紀の修道院カルチュレールの具体的な研究として、サン・シプリアン修道院を事例に、手稿本の形態的分析とテクストにおける「記憶の管理」の検討を行った。「記憶の管理」は選択と隠蔽の二つの観点からその傾向を詳述し、このカルチュレールが修道院の教会政策の手段として機能したことを明らかにした。それと同時に、「記憶の管理」と実用性の共存を実証することで、このカルチュレールが財産管理に果たす機能も指摘した。 2.12月半ばから2月末にフランスへ渡航し、本研究の第二課題「「記憶の器」としてのカルチュレールの固有性」で使用する史料の調査・収集にあたった。ヴィエンヌ県文書館とメディアティック(ポワチエ)、フランス国立図書館(パリ)を中心に、ポワトゥ地方の修道院全般に関する史料の現存状況を把握し、11・12世紀作成の史料を収集した。手稿本の書冊学的・古書体学的分析によって、12世紀初頭の記述を含むことが判明したモンチエールヌフ修道院のカルチュレールは、分析に値する史料である。また、かねてより研究への助言を仰いでいるL・モレル先生(フランス国立高等研究院主任研究員)とF・レネ教授(ボルドー第3大学)のもとで研究報告を行った。 3.3月に大阪大学と九州大学で開催されたモレル先生の講演会に出席し、中世初期・盛期フランスを対象とした文書史料論、とりわけ、修道院のアーカイヴスの機能やオリジナル文書の概念を主題とする講演を拝聴した。アーカイヴスと本研究で扱うカルチュレールとが「記憶の場」として担う機能について、モレル先生と意見を交換した。
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