2006 Fiscal Year Annual Research Report
ヤナギ類における昆虫誘導防衛と植物間ケミカルコミュニケーションの化学生態学的解析
Project/Area Number |
06J02569
|
Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
釘宮 聡一 独立行政法人農業環境技術研究所, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 誘導防衛 / 直接防衛 / 間接防衛 / 全身獲得抵抗性 / 防御遺伝子 / 揮発性物質 / プラントトーク / ヤナギルリハムシ |
Research Abstract |
植物は植食者による食害を受けると,誘導的に毒を生産したり,植食者の天敵を誘引する等,積極的に防御することが知られている.また,隣接する被害植物が放出した匂いを受容した未被害植物が誘導防衛を行う仕組みも草本で解明されつつある.本研究では,木本のヤナギ類における対昆虫防衛および植物間化学交信の分子機構と生態機能の解明を目的とした. ジャヤナギSalix eriocarpaの防御関連遺伝子として,フェノール性化合物の生合成に関わるphenylalanine ammonia-lyase (PAL)やdihydroflavonol reductase (DFR), polyphenol oxidase (PPO)及び消化酵素阻害剤であるtrypsin inhibitor (TI),ジャスモン酸の生合成に関わるLipoxygenase (LOX),多糖分解酵素であるcellulase (CELL)やchitinase (CHIT),テルペン生合成酵素であるfarnesyl pyrophosphatase (FPS)を単離し,部分配列を決定した.ヤナギルリハムシPlagiodera versicoloraによる食害後の発現パターンをRT-PCR法で時間的・空間的に比較した結果,食害葉においてLOX及びTIが顕著に発現し,さらにこれらは同じ被害個体の未食害葉でも発現していた.人工的な傷害でも同じ発現パターンを示したことから,ジャヤナギでは昆虫食害に伴う傷害に応答して防御遺伝子が発現したと考えられる.一方で,植物問の化学交信が植食者昆虫に及ぼす影響を前倒しで検討した.ハムシ食害植物や,その風下で匂い受容した立聞き植物,健全植物の匂いを受容した健全植物,各々の上でハムシ幼虫を育て,成長期間や生存率,蛹重,食害量等を比較したところ,立聞き植物上で飼育したハムシのパフォーマンスのみが有意に低下した. 以上のことから,ヤナギはハムシ食害に抵抗して防御遺伝子を発現するものの,ハムシの側も既に何らかの対抗手段を獲得して適応を遂げていると考えられ,揮発性物質を介した植物間の化学交信が誘導防衛を準備し,実質的な効果を発揮しているものと推測された.
|