2006 Fiscal Year Annual Research Report
パウル・ティリッヒにおける宗教思想-哲学・歴史哲学との関わりを中心に-
Project/Area Number |
06J02600
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
古木 葉子 (鬼頭 葉子) 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Keywords | ティリッヒ / 宗教哲学 / 聖霊論 / 共同体 / 正義 / ブルンナー / ニーバー / ロールズ |
Research Abstract |
1.パウル・ティリッヒの聖霊理解-霊の普遍性・創造性について- ティリッヒの考える「霊」(S/spirit)のユニークな特徴を明らかにした。霊の「脱自的性質」(人間の精神の構造を破壊することなく精神の内に入り込むこと)の故に、霊は精神の内の動的な力となり、さらに文化・社会においてはたらく。この点において、ティリッヒは、キリスト者でなくとも誰もが霊の自由なはたらきをうけ(霊の普遍性)、また個別の宗教の具体性が確保されること、さらに霊の現臨が自己だけの体験に留まらず、他者との共同体に開かれており、共に生きることを実践する創造性とを、「霊」の働きに見出したと考えられる。 2.正義をいかに考え始めるか-1940年代〜60年代の思想家達- ティリッヒと同時代、「共同体」ならびに「正義」について問うた神学者・哲学者の思索を比較検討した。E.ブルンナーは、秩序が成立すれば正義が遂行される、と単純にはいえない時代状況に即し、正義の原理についての教説を保持するキリスト教会の伝統に依拠する。他方、ティリッヒの考える正義の原理は、形式的には、他者の人格的承認であり、具体的には、無条件に妥当する内容を含むものではない。またニーバーは、人間は自由ゆえに秩序を求めるとし、自由と秩序が相互に支え合う形式=デモクラシーを擁護する。一方ティリッヒは、デモクラシーには消極的肯定の立場である。彼は、正義を秩序づける「力」と「正義」と「愛」の本質的統合を指摘し、正義の第一段階(基本的欲求の承認)・第二段階(平等な分配)を踏まえた第三段階の「創造的正義」(聴くこと・与えること・赦すこと)によって、正義の「内容」を模索する。創造的正義は、ロールズのいうwell-ordered societyの「公正」のように、正義の原理を明示するものではない。しかし正義の概念がいかに集団の同意を得、いかなるレベルで平等たり得るのか、対話の基盤となる可能性を持つと考えられる。
|
Research Products
(1 results)