2008 Fiscal Year Annual Research Report
多文化主義的時代における、正義論と国民国家の役割に関する、哲学的探究
Project/Area Number |
06J03164
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川瀬 貴之 Kyoto University, 大学院・法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多文化主義 / リベラルナショナリズム / リベラリズム / ナショナリズム |
Research Abstract |
本年度は、昨年度までの業績をもとにして、三年間の研究のまとめとなる論文2本の執筆に取り組んだ。まず、イギリスの政治哲学者であるデイヴィッド・ミラーの著作を幅広く分析し、リベラルナショナリズムと歩調をあわせつつも、やや異なる市場社会主義の観点から「道具的ナショナリズム」を擁護している彼の理論を批判的に検討し、特にグローバルな正義の議論において、彼と正反対の立場からナショナリズム批判や貧困緩和のための国際的な制度枠組みの構築提言を展開しているトマス・ポッゲの理論との比較を試みた。この論文は、リベラルナショナリズムやミラーの社会主義的なナショナリズムを含む「道具的ナショナリズム」の議論が、グローバルな正義論からの挑戦に対して、どのように応答できるのかを明らかにすることを目的としたものである。次に、リベラルナショナリズムは、非リベラルなナショナリズムに対して、どのような態度をとりうるのかという問題関心から、他者の文化を批判することの意味について検討した論文を執筆した。これは、カナダの政治哲学者であるジョセブ・カレンズが主張する文脈主義的な多文化主義の議論を参考にして、我々が他者の文化を批判することに伴うさまざまな問題点を明らかにし、文化批判の作法について一定の指針を示すことを目的としたものである。それは文化的に多元的な世界において、りベラルナショナリズムが他の文化に対して示すことのできる寛容の限界を明らかにし、同時に他者の文化への批判に伴う独善的な自文化中心主義を回避する方法を模索するものである。
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Research Products
(2 results)