2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
06J03231
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 泰央 京都大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 環拡張ポルフィリン / 金属錯体 / 熱変換反応 / 芳香族性 |
Research Abstract |
環拡張ポルフィリンのうち、8つのピロールからなるオクタフィリンの金属錯体についての研究を中心に行った。これまでに、銅二核錯体が熱により定量的に、2等量の銅ポルフィリンへと変換される事を見出しているが、その反応機構は明らかではなかった。そこで、上記の変換反応の中間状態を計算により見積もったところ、反応の途中段階で、銅の価数が2価から1価及び3価へと不均化している事を示唆する結果が得られた。すなわち、この反応には1価から3価の原子価を安定に取り得る銅の存在が不可欠である事を示唆している。そこで、他の金属についても錯体を合成し、比較検討した。亜鉛との錯化においては、定量的に亜鉛二核錯体を得たが、構造的には銅二核錯体とほぼ同じであるにもかかわらず、熱による変換反応は全く起こらなかった。これは、亜鉛が2価以外の価数を取り得ないために、上記の反応機構を進行できないためであると考えられる。コバルトとの錯化においては、コバルト単核錯体を定量的に得た。この単核錯体は熱による変換を起こさなかったが、更に銅塩と反応させる事で得たコバルト銅二核錯体において、ポルフィリンへの変換反応が進行する事を見出した。コバルトも複数の原子価を安定に取りうるので、上記の反応機構の裏付けとなるものと考えている。ニッケルやパラジウムとの錯化においてはいずれも、錯形成の段階で新たな骨格変換が起こった構造を含む複数の種類の錯体が得られた。パラジウム錯体のうち一つは、炭素パラジウム結合を3つ持ち、メビウスの輪のようにねじれた構造を有する事をX線結晶構造解析により明らかにした。この錯体は、ヒュッケル則を満たさない36π電子系であるにも関わらず、1H MWRスペクトルにおいてシグナルの大きな高磁場シフトが見られ、強い芳香族性の存在を示唆している。現在までに合成例が1例しかない「メビウス芳香族性」を示す分子であると考えられ、現在その物性の検証を急いでいる。
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