2006 Fiscal Year Annual Research Report
メラネシアにおけるキリスト教の展開と宗教観に関する人類学的研究
Project/Area Number |
06J03691
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石森 大知 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | メラネシア / キリスト教 / 宗教概念 / 国家統合と宗教 / 信仰 / ソロモン諸島 |
Research Abstract |
年度のはじめより、メラネジアにおけるキリスト教受容および宗教実践に関する文献を広く検討し、本研究の視点の構築をおこなった。これらの文献資料を批判的に考察することによって既存の研究の問題点を明確化させたうえで、平成18年度の10月にソロモン諸島の首都ホニアラおよびニュージョージア島において現地調査を実施した。その結果、以下のことが明らかとなった。 ソロモン諸島がイギリスの植民地から独立を果たしたのは、1978年である。それ以降、ソロモン諸島政府は、国家統合のシンボルとしてキリスト教を利用し、神のもとでの団結を訴えてきた。同政府は、「ソロモン諸島民」としての一体感および国民意識が希薄な人々を1つにまとめるために、個々の民族が有する伝統文化を尊重しつつも、大多数が共有するキリスト教にその役割を期待したのである(国民の約98%はキリスト教徒)。従来の研究において、このようなキリスト教に基づく団結は、国家エリートの視点に過ぎないと論じられてきた。しかし、近年のソロモン諸島の首都で生じた暴動事件およびそめ後の動きは、従来の議論とは相容れない側面をもっている。というのも、キリスト教団体を母体とした市民ネットワークが、民族間対立に基づく政治的混乱を収束するという点において積極的な活動をおこない、国家の政治的安定に向けてきわめて重要な役割を担ったからである。その活動に関する事例考察をとおして、とくに都市に居住する人々の間では、キリスト教的価値観に基づいて団結をはかり、民族間の融和や国家統合を達成するという考え方が浸透していることが明らかとなった。なお、同研究成果の一部を公表するために、日本オセアニア学会においてフォーラム「現代オセアニアにおける政治的混乱と都市暴動」を組織し、自らも研究発表をおこなった。
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