2006 Fiscal Year Annual Research Report
清末,東チベットにおける新政と政治・社会構造の変容-土司制度の解体と民族問題-
Project/Area Number |
06J03935
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小林 亮介 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 東チベット / 土司 / ダライラマ |
Research Abstract |
[『史潮』掲載論文について] 中国とチベットの境界に位置する東チベットー帯は,清末以降,近代的領域国家建設を目指す中国と,自国の自主・独立を目指すチベットの間で摩擦の一大焦点となった地域であり,当該地域の複雑な政治・社会構造が清代以来いかに変容しどのように中蔵関係を規定していったのかという問題は,検討しなければならない課題である。だが,従来の研究は中国・チベット問のマクロ的な政治外交史が中心となり,東チベットの支配者層である「土司」を中心とする統治構造のあり方とその具体的機能に焦点をあてたものは極めて少なかった。そこで本研究は,19世紀,東チベットの一地域であるニャロン地方において生じた在地有力者のダライラマ政権への抵抗運動を取り上げ,清末に到り清・蔵双方が東チベットに積極的に関わっていく中,在地有力者が見せた複雑な政治行動・帰属関係のあり方を動態的に把握することを試みた。19世紀中葉,ニャロンの土司の血を引く有力者ゴンポナムギェルの征服活動がチベット軍により鎮圧された後,ニャロンの支配集団は,ダライラマ政権→土司一族の復権→清朝の軍事介入→ダライラマ政権とめまぐるしく展開した。本研究はこうした政治過程の検討を通じて,二つの強大な政治権力の狭間に位置する東チベットの重層的な政治・社会構造の特性である,自らの血統と清朝により附与される政治的権威を背景に在地社会の統合を図る土司,各部落に存立し土司の支配を支える頭人,在地の権力者であるとともにチベットの精神世界を媒介する寺院権力,以上の三者を基礎として展開する清朝・ダライラマ政権双方との依存・対抗の関係を見いだした。この重層的な政治・社会構造は中国内地で隣接するチベット周縁部において広範に見られる傾向であるが,これは近代以降に中国・チベット双方の影響を強く受けた当該地域の民族エリート層の政治行動のあり方に大きく影響を与えたと考えられる。
|