2007 Fiscal Year Annual Research Report
清末,東チベットにおける新政と政治・社会構造の変容-土司制度の解体と民族問題-
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06J03935
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小林 亮介 University of Tsukuba, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ダライラマ / 境界問題 / 寺院 / 東チベット |
Research Abstract |
[ワークショップ「現代チベットにおける開発と文化複合」口頭発表について] 20世紀初頭以降,近代的な領域国家形成を推進していた中国とチベットは,両者の隣接する東チベットの政治支配をめぐり激しい対立を繰りかえした。本報告は20世紀前半の両者の関係を大きく左右した,この東チベットにおける境界問題の形成・展開過程に注目したものである。従来の研究は,大陸および欧米ともに,英国・中国・チベット間の政治外交史や,チベットをめぐる正統的な領有権の所在を実証することに関心を注いできたが,係争地であった東チベットの地域的特質,現地の実質的な支配者や,彼等と中国・ダライラマ政権の複雑な相互関係とその歴史的展開を動態的に考察することはなかった。そこで私は,20世紀に入り中国・チベットがともにナショナリズムを具有し展開させていく中で,本来複合的かつ多様であったカムの政治・社会構造の現実を,近代的領域観念によっていかに解釈して境界を設定せんとし,それがどのような問題を惹起したのかを,当該地域の政治過程における重要なアクターであるチベット仏教寺院に対する管轄権の推移に注目しつつ明らかにすることを試みた。その結果,(1)チベット仏教寺院のネットワークが,チベット側の領有権主張の根拠として位置付けられたこと。(2)宗教・政治・軍事・経済等,聖・俗両側面の包括的な権力を有するチベット仏教寺院は,チベットの領土拡張の意図と密接に連動しつつ境界紛争の一大要因となったこと。(3)こうした中で,確固たる宗教的権威を持たない中国にとって,ダライラマ政権の宗教的権威への抵触を回避しつつ如何にして寺院を統御しうるのかが解決困難な政治課題として浮上した,という見解を得た。なお,この報告の全内容は,ワークショップ当日に配布された予稿集『現代西蔵開発与文化交融』に日中両言語にて掲載した。
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