2006 Fiscal Year Annual Research Report
虫媒花植物における花粉の輸送様式の多様性と交配様式の関係について
Project/Area Number |
06J04379
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井田 崇 北海道大学, 大学院環境科学院, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 植物の繁殖生態 / 種間相互作用 / 気候変動 / ポリネーション |
Research Abstract |
本研究は,陸域生態系において多様な進化を遂げている維管束植物の繁殖システムと送粉共生系に着目し,花粉媒介昆虫の行動に関連した植物の繁殖戦略形成プロセスの解明と送粉共生系の環境変動に対する感受性について,植物と花粉媒介昆虫の相互作用の観点から明らかすることを目的とした.北海道の落葉広葉樹林下に生育する春植物を対象とし,開花フェノロジー,花粉輸送量,訪問する昆虫種や訪問頻度,種子生産について調査を行った.春植物の繁殖成功における年度間変異には3つのパターンがみられた.1.雪解け後すぐ開花し,ハエ類を中心とした多くの種を花粉媒介者として利用している種では,結実率の年度間変異は小さく,繁殖成功は安定していた。これらの種では送粉効率は低いものの,開花期とハエ類の出現パターンは同調しており,多種との緩やかな関係は安定した繁殖成功を可能としている.また,自家和合性により,花粉媒介者によらない繁殖補償を得ていると考えられる.2.同じくハエ類・甲虫類を花粉媒介者としてもつが開花時期の遅い種では,花粉媒介者が不在でも高い繁殖成功を残せるが,年度間の繁殖成功には変異が見られる.これは林冠閉鎖による資源制限,つまり気候変動による植物間相互関係の変化によるものだと考えられる.3.マルハナバチを花粉媒介者として持つ種は,高い送受粉効率を得られるが,植物の開花フェノロジーとマルハナバチの出現時期が同調しない年には大きな影響を被っていた.気候変動は森林生態系における植物種間や動物-植物間の相互関係に影響を及ぼし,その結果,春植物の繁殖成功が決定されると考えられる.特にこの影響は,マルハナバチを花粉媒介者として利用している植物種において,より深刻である.さらに春植物の繁殖成功を評価するには,送粉共生系や交配様式とともに,同化産物の利用パターンや森林全体の生物間相互作用の理解が必要であると示唆される.
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